第71回
バランスをよくする方法 ―「放松」

『太極導引』鍛練において、
つねに必要とされる状態であり、また稽古の重要な内容として
心身を放松状態にするということがあります。
今回はこの「放松」という状態について
お話をしようと思います。

「放松」とは、
中国語であり、ファンソンと発音します。
リラックスすることや緩めることの意味です。

『太極導引』で練習する「放松」という状態は、
肉体上と精神上の二つの方面で示されます。
肉体上の「放松」は、筋肉を緩める状態ですが、
無力的なだらけた状態ではありません。
理想的な「放松」状態とは
綿のようなイメージで、フワフワと柔らかくしているけれども、
形はキチンとしています。
ちょうど水の状態が同じような印象ではないかと思います。
ですから、「如綿似水」という状態は
肉体上の「放松」を行う目標となります。
また、精神上の「放松」のイメージは
落ち着いていて穏やかな状態です。

「放松」の練習を必要とする考え方には
伝統的には陰陽バランスを良好にする目的があり、
現代医学では
自律神経を通じて全身の生理活動を整えることに通じます。

動物(人間を含む)には、その本能として
生命を保護するための警戒システムが体内に存在し、
それは頭脳思考を経なくても働いています。
体の警戒システムが発動した時に現れる
肉体上の変化としては、
肩が上がったり、瞳が拡張したり、
汗が出たり心伯が加速したり、筋肉が収縮したりします。
精神上の変化としては興奮してイライラします。

警戒状態が緩和されるのは、
一般的には睡眠行為を行っているときです。
しかし、動物は
睡眠状態にあっても警戒システムが働くようにできています。
ですから睡眠には
完全に警戒状態を調整するだけの効果はありません。
しかも人間は他の動物よりもさらに酷くて、
単なる睡眠行為では
警戒反応を改善するためには物足りない状態にあります。
なぜなら、人間の意志が他の動物よりも強いからです。
たとえば、何かの為ならば何日間か睡眠をとらないように
コントロールすることもできてしまいます。

従って『太極導引』鍛錬は、このような警戒状態を緩和し、
生命活動をバランスよく行えるようにする健康法となるわけです。


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