“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第590回
新橋「久」の普通の旨さが極上の味

新しい和食料理屋が11月末に開店した。
名前は「久」という漢字を書いて「きゅう」と読む。
割烹とは違うし、居酒屋ともまた違う。
極上の食材を使っているが、
奇をてらってインパクトを出そうとする変化球料理は皆無。
刺身、フライ、焼きものなど、すべて定番の直球勝負で、
普通の美味しさを提供したいとしている。

場所は鮨処「しみづ」の2軒となりで、
食材も2軒同時に仕入れ。
そう、ここは「しみづ」が以前から暖めていた、
普通に美味しい料理を客に食べてもらいたい
という企画が実現した店。
開店の案内をいただいて、表敬訪問。
表には看板も暖簾もなく、
小さく「久」という表札がでているだけ。
「しみづ」同様カウンター10席程度だけの小さな店。
経営者は「しみづ」の清水邦浩氏だが、
料理長として弟さんの清水久史さんが店を預かる。
平日は夜のみ営業だが、日曜・祝日は昼からの通し営業だ。

開店直後に表敬訪問をした。
月曜の「しみづ」の定休日に伺ったので、
清水邦浩さんもお店に顔を出していた。
店内は清楚で清潔感あふれる。
カウンターからは厨房の仕事が丸見えで、
オープン感覚が気持ちいい。
最初はおまかせ数種が黙っていても提供される。
今回は、ピータンの卯の花和え、
酒盗和え・山葵漬けなどの珍味、
ズワイガニ、蛸・牛・鯖などの刺身、野菜の椀と続く。
まずはビールで乾杯。
そしてすぐに燗酒に切り替える。
さすがに「しみづ」で仕入れる食材。
いずれの料理も旨く、酒が進むこと。

日本酒は神亀、大七のみ。
タンポで目の前で湯煎して燗をつけてくれる。
他にも焼酎、ワインがある。
おまかせを終えてから、
自由にお品書きのなかから食べたいものを選択してお願いする。
「カラサメ」と書いてあったので、何かと思ってきいたら、
春雨のカラスミ和え。
酒肴としてなかなかいける。
フライが秀逸。
「スミイカ」、「穴子」を頼んだら、本当に旨い。
弟さんはフレンチレストラン、ホテル、日本料理店など、
数々の店で修行をつんでいて、火の通し方が本当に絶妙。
これでは、「しみづ」の客が減るのでは
と店内で冗談がでるほど。
天麩羅とはまた違った旨さだ。
あまりに美味しいので車海老も追加した。

途中で提供されるレタスのサラダも素朴で旨みあふれる味わい。
最後には、白いご飯を注文されてから
土鍋で別々に炊き上げてくれる。
それに鰹節を掻いて乗せたものの旨いこと。
赤だしとともに愉しむ。
新橋「久」は、普通の美味しさというには、
あまりに美味しすぎる。
まだ、開店したてで、
料理がでてくるのがだいぶ待たされることもあったが、
これはまだ客扱いに慣れていないだけ。
1年もすれば素晴らしい店に育つことだろう。
このような、普通の料理が美味しい店ができたことは
なんとも嬉しい。

この普通の美味しさが無くなりつつあるのが
日本の食文化の大きな問題点であり、
そこを埋めるコンセプトには大いに拍手を贈りたい。


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2006年12月1日(金)

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