“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第613回
川越の醤油のヒミツ

我が家で使っている醤油は、
川越の松本醤油が醸す「初雁醤油」。
刺身に使ってもいいし、火を通す料理に使っても旨い。
とにかくバランスのいい醤油だ。
松本醤油を訪問して、
四代目代表の松本公夫さんに話をうかがってきた。

松本醤油は、
小江戸と呼ばれる風情のある川越の中心に位置している。
近くには小川菊という老舗の鰻屋や、古い寺院が並んでいる。
レトロな駄菓子屋が集まった「菓子屋横丁」もすぐ近く。
松本醤油は文政十三年に建造された蔵で、
その頃に作られた7キロリッターの容量の
大きな木桶40個だけを用いて、
昔ながらの伝統製法で醤油を醸造している。
創業当時は横田屋という商号で、
それを明治の頃に松本家が買い取った歴史のある醤油蔵だ。

代表取締役の松本公夫さんは、昭和二十二年の生まれ。
東京農大を卒業してパン屋に2年間勤めてから
松本家に養子で入った。
松本醤油創業以来四代目になる。
当時、日本は高度成長時代で
醤油製造業は合理化による大量生産、
低コスト化へ向かっていた。
松本さんが先代と議論して一致したのは、
合理的にものを作るのは小さい醤油屋から見ればつまらない。
手作りの楽しみを残したいということだった。
そして手がけたのが再仕込み醤油。
つまり、醤油を原料にして醤油を仕込み、
コクを引き出す醤油製法。
大手の低価格の醤油と同じものを作っても生き残れない。
低価格競争はキッコーマンにかなうわけがない。
伝統製法は守りながら、
なんとか、オンリーワンの特長のある醤油で商売をしたい
と考えた末の結論だった。

通常の仕込みの醤油はトータル窒素量が1.5程度にとどまるのが、
再仕込みを行うと1.9まで増加する。
それだけ味わいが深くなるが、
香りを出しにくいという欠点があった。
大豆の蒸しかた、小麦の炒りかた、水分量の調整など、
色々な工夫をしてなんとか香りを出そうとする努力が始まった。
醤油業界の研究機関である(財)醤油研究所に通い、
先生に技術指導を受け、
2年間かけてやっと香りを出すノウハウを確立できた。

天然醸造で1年かけて濃い口醤油を醸造・熟成させる。
それを原料にさらに再仕込みをして
1年間醸造・熟成期間を繰り返す。
合計2年の醸造・熟成を経て作る、
味と香りのバランスのとれた醤油が完成した。


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2007年1月10日(水)

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