死ぬまで現役

老人を”初体験”する為の心構え




第57回
頭の中を空っぽにする機械

テレビはまた、自分たちがやっていることに
お客があきることをおそれて、
一分か、二分ですぐにも目先を変えてしまう。
一つの問題とか、一つのテーマを徹底的に追究することは
テレビの最も苦手とするところで、
コマ切れの情報や場面をつないで一本の番組を成り立たせている。

そのコマ切れ情報も、人々に知識をあたえるよりは、
人々の劣情に訴えるものに重点をおく傾向が強く、
テレビのニュースそのものが
スキャンダラスなニュースの追跡をしている。

それ以外はほとんどがクイズ番組か、
娯楽番組であり、賞金や景品目当てで集まってくる連中に、
大して役にも立たない粗悪な質問をしてうまく言い当てた人には
ハワイ旅行やヨーロッパ旅行の切符をプレゼントする。
見ていて、そういう人がうまく当てられなかった人より
知恵がありそうだとか、頭がよさそうだとか、
いったことはまったくない。
うまく当てた人にしても、
博覧強記という印象はなく、偶然、
自分の知っていることを質問されただけで、
「や、運がよかったな」
というていどの罪のないやりとりに終始している。

連続ドラマに至っては、同工異曲もいいところで、
「葵の御紋」が出てくるか、
「さくら吹雪」が出てくるか、の違いはあっても、
どのへんでどうなるかは見ているうちに大体、わかってしまう。
どんな人気ドラマもロミオとジュリエットの焼き直しか、
レ・ミゼラブルの焼き直しか、でなければ、
日活ポルノをもう少しお上品にした不倫物と相場がきまっていて、
ほかにやることがなくて時間をもてあましている人が
テレビのチャンネルをまわすと、
いつでも時間潰しのお相手役をつとめてくれる。
時間を何に使うかという選択も、
苦心して時間を使う努力もなくて、
ただポカンとしている人のためにあるのがテレビである。
だからテレビを見ていると、
だんだん頭が空っぽになってしまう。
頭を空っぽにするためには
かなり効果のある肩もみ機械であるといってもよいであろう。

もちろん、画像で見せるから、
レーガン大統領の首すじのシワがどうなっているか、
ゴルバチョフ書記長のシミがどんな大きさか、
テレビは容赦なく撮って見せてくれる。
その日のうちに、あるいは、
まったく同じ瞬間に地球の裏側で起こっている事件も
伝えてくれるから、
世界中の人女をいつまでも
情報から隔離しておくことができなくなった。

イ・イ戦争とか、レバノンの内戦とか、
パキスタンの大統領の事故死なども具体的に見せてくれるから、
血で血を争っている人たちが
そんなには利ロには見えなくなってしまった。
どんな独裁者も自分がやっていることを正当化して、
テレビを見ている人たちを納得させなければならないから
悪徳政治家には武器であるというより、
都合の悪い媒体といってよいだろう。

もっとも竹村健一説によると、
テレビのチャンネルをリモコンで動かすようになってから、
スイッチを押しているうちに、
視聴者は今まで自分たちが
関心を持たなかった番組も見るようになって、
大いに物知りになってきたそうである。
主婦が財テクの番組で
経済評論家のいっていることに耳を傾けたり、
若者が時事放談や世相講談をきいてくれるようになったりして、
新しい知識を得るチャンスがふえる。
そういうきっかけをリモコン・スイッチが
つくってくれたというのである。
あるいはそういうこともあるかもしれない。
何事もいいことずくめということはないし、
悪いことずくめということもない。

しかし、テレビがはじまった頃、
皆がテレビの前に張りついているのを見て、
口の悪い大宅壮一さんが「一億総白痴化」といった。
人間の思考力を刺激するどころか、
逆に麻悼させるテレビの番組の効果を考えると、
テレビほど時間の無駄遣いに貢献する
「文明の利器」は他にないのではあるまいか。
テレビにばかりつかまっていると、人間は怠け者になるし、
時間を無駄に使ってしまう。
生きているのか、死んでいるのか、
わからない時間の使い方になってしまう。
その証拠に、人生にあまり用のなくなった人々ほど一日中、
テレビの前にかじりついている。





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2015年4月1日(水)

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