死ぬまで現役

老人を”初体験”する為の心構え




第87回
「財産は一代限り」の税法思想

個人の財産についてもその通りだが、
中小企業のオーナーにとっては、
会社の財産をどうやって継承するか、
自分の持株に対してどう対処するかというもうーつ、切実な問題がある。
「生きている限り働くんだ」、「死ぬまで現役でやるんだ」、といっても、
人間のことだから、いつかは必ず死ぬ時がくる。
交通事故とか、心臓発作で突然、死ぬのならともかく、
六十代、七十代になれば、あるていど死んだあとの準備をととのえる必要がある。
人が死んでも事業は残るから、
残った事業を継承してくれる人をつくっておかなければならないし、
事業の継承者に、事業そのものが支配できるような所有権の移転も必要になる。

自分の息子に親の事業を継承するだけの能カがあるかどうかは、
もちろん、重要なことであるが、
東急とか、東京ガスといった上場企業ならともかく、
中小企業は能力の有無とかかわりなく、
身内が継承するのが世間の常識であろう。
しかし、現行の相続税法は「財産は一代限り」
という思想の下でつくられているので、
たとえ身内であっても、親の事業が
そのままスンナリと継承者の手に渡るようにはできていない。
個人の所有にかかわる店舗の二階に家族が居住していて、
店は法人組織にして個人から家賃を払って
家族で経営しているような典型的なパパママ・ストアでも、
不動産が個人の所有になっていると、
不動産が昨今のように極端な値上がりをした場合、
さっきあげたような億単位の相続税に悩まされて、
最悪の場合は、家そのものを処分しなければならなくなる。
家を売って相続税を払い、残金で郊外に店のできそうな不動産を購入してそこへ移る。
でなければ、相続人で残金を受けて、
散り散りバラバラになってそれでおしまいにする。

子供たちが親の跡を継ぐとは限らず、職業も違えば、
勤務先が違うことも多いから、それはそれでーつの解決法であろう。
ただし、中小企業の中には、何百人か、何十人の従業員を抱え、
企業そのものがーつの生活共同体になっているスケールのものもある。
たとえば、 資本金が一億円で、従業員が二百人、
年商二十億円のメーカーの場合、東京では大して珍しい存在でもないが、
地方都市に行ったら、町で十指に入る事業体であり、
その社長は商工会議所の会頭か、商工会の会長であったりする。

戦後、個人企業からスタートし、企業体が大きくなるにつれて法人化するが、
最初の頃は資本金百万円であったのが、
増資を重ねるうちにいつしか一億円の会社になってしまった。
日本の企業は銀行からの借り入れを起こす必要上、
あるいは対外信用の関係で、
必要に迫られないと増資をしない傾向が強いから、
一般に過小資本になっている。
また個人商店から株式会社に改組する時、妻は専従者だったし、
子供は幼かったし、従業員に株を持たせる気ははじめからなかったから、
株主の構成をする時に、社長は70%、奥さんは10%、残りの20%は親戚、
親兄弟、従業員の名前を借りるということが多かった。
たとえそれが名義を借りたものであろうと、
いったん、そういう比率にきまると、配当金もその比率で分配されるし、
次に増資をする時もその比率で増資をさせられる。

それが一億円になった頃、ようやく子供が大きくなって、
将来の相続のことが頭をかすめるようになる。
いまのうちに少しずつでも子供の名義に変更しておかなければと思うが、
その頃には一株五百円だった株が税務署の評価で五千円になっていたりする。
一人につき一年六十万円が贈与税の免税店だと、
税の本を読むと書いてある。
それなら、千二百株なら大丈夫だろうと思って勝手に名義変更すると、
すぐ税務署から呼び出しがあって、
おたくの株は一株五千円の評価ですから600万円贈与したものと見なして、
176万5千円の税金を贈与税としていただきますといわれる。
資本金一億円の発行株数は二十万株だから、無税で贈与しようと思えば、
年に百二十株しかできない。
全部、贈与しおわるのに千年もかかってしまう。
これでは節税対策にならないことは、小学生でもわかる。





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2015年6月10日(水)

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