死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第46回
売ってしまえばそれで終わり

早くからこのことに気づいた利のさとい不動産業者たちは、
「いつまでも仲介業にしがみついていたって仕方がない。
いっそ開発に着手するか、
不動産賃貸業に転身しなければ駄目だ」と悟るようになり、
建売業をはじめたり、マンション建築に手を出すようになった。

この方面に手を出して大成功をし、
上場企業と肩を並べるようなスケールまで
自分の企業を育てあげた不動産業者も結構、たくさんある。

これらの開発業者は土地を買って値上がりを待つよりも、
土地に加工をして付加価値をつけ、
その付加価値を稼ぐことを本業としているが、
もちろん、扱っている商品そのものが不動産であるから、
不動産の値上がりによって恩恵を蒙る面もある。
と同時にマンションや建売住宅の売行きは、
その時々の業界の景気不景気に左右されることがあるから、
折角建てたマンションや建売住宅が売れ残って
四苦八苦をすることもしばしばある。

日本でマンション建築の先陣を受け持った業者の1つに
秀和という会社がある。
一時期、都内の一等地で秀和レジデンス
というスペイン風の白壁づくりのマンションを
次から次へと建てて一世を風靡したことがあった。

案外、安普請で二階の足音が下の階に響くという批判もあったが、
ロケーションがよくて、外観も素敵だったので、
インテリの人たちに歓迎されてとぶように売れた。

もちろん、企業としてお金も儲かっただろうが、
儲かったら税金にガッポリとられるし、
売らなければ従業員を遊ばせてしまう。

やむを得ず新しい場所を見つけては
次から次へと新しいマンションを手がける。
そのたびに土地が値上がりして、
新しく売るマンションはコストが高くなるし、
古いマンションもそれにつれて値上がりするが、
肝心のマンション屋は全部、売ってしまったあとだから、
お客を儲けさせるばかりで自分たちは一文のトクにもならない。

さすがの私も見るに見かねて、
あるとき、秀和の社長の小林茂さんにあったとき、
「あなたは税金と社員の給料を払うために生きているのですか?」
とひやかしたことがあった。

おそらく小林さんも、
さんざそうした経験をしたあとだから同感したに違いない。
小林さんは自分が一旦、納得したら変わり身の早い人だから、
マンションを建てて売るメーカーから
不動産賃貸業に切替えをしてしまった。

それから二十年近くたったある日、
ロサンゼルスの新聞社で偶然、
パッタリと顔をあわせた。

小林さんは私の顔を見るなり、
「センセイ。私は現在九百億円の借金を持っていますが、
六十億円の家賃収入があって、
ちゃんと出る分と入る分と見合っていますよ」
と言った。

きっとその昔、私に言われたことを
頭のどこかの片隅にとどめていたのかもしれない。
不動産を持っていて、収支が見合っておれば
やりくりは何とかやっていけるから、
あとは値上がりを待てばよい。
年がたつにしたがって
大へんな含み資産になって行くことは目に見えているのである。

つい最近も『マネー』という雑誌の対談のために
小林さんにあった。
「とうとう日本国内の家賃収入が年に二百五十億円、
アメリカからの分が三百億円になりました。
三菱地所、三井不動産、森ビルに次いで第四位です」
と小林さんは意気軒昂だった。

小林さんのアメリカ投資は最近、
ジャーナリズムの話題になっているが、
仲介業や開発業に比べて、
賃貸業が問題にならないくらい有利なことは
どうやら洋の東西を問わないようである。
同じ不動産を業としても、
財産の残るやり方とそうでないやり方には大きなひらきがある。





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2013年9月13日(金)

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