死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第48回
地元不動産屋の強味

ところが、店の前に貸室や
貸マンションの貼紙をしている仲介業者になると、
同じ不動産を扱う業者であっても、
不動産値上がりの恩恵を蒙ることが最も少ない。

近来、年と共に、不動産は値上がりをしてきた。
仲介業は扱った商品の高に比例した手数料をもらう商売だから
不動産が値上がりすれば、
収入もそれだけ大きくなる。

たとえば、三十年前、私が百万円の家を買ったとき、
その周旋をした業者は三万円か、五万円しか稼げなかったが、
同じ土地が今では軽く一億円を突破する。
すると規定料金だけで、
売主か買主のどちらか一方からだけであろうと、
三百六万円の手数料をもらえる。

両方からもらえれば、もちろんその倍になる。
普通は、ブローカーが何人もかかわりあっていて、
手数料の分け前を一人占めというわけには行かないが、
かりに、二、三十坪のマンションを
うまく周旋して六百万円も手数料をもらったとしたら、
わずか一室の世話をしただけで、
サラリーマンの年収にあたるだけの収入をあげたことになる。

こういうチャンスに二、三回出合うと、
街の不動産屋は
なかなかやめられないようになウてしまうのである。

その代わり不動産屋の仲介の成功率は
俗に千三つと言われているように、
そう滅多にあるものではない。
何しろ金額が大きく、
たとえ三%の手数料でも何百万円にも
何千万円にものぼってしまう。

それも、知らなかった情報を
ちょっと知らせてもらっただけで、
莫大な手数料を払うのだから、
売主でも買主でも、業者の介在をいやがり、
何とかふり払ってしまう方法はないものかと知恵をめぐらす。

不動産業者のほうでも、
排除されては大へんだと思うから、
何が何でもしがみつき、場合によっては、
ヤーさんのような淡阿をきるようなことも起きる。

「街の不動産屋は悪い」「街の不動産屋は信用がならない」
という声をよくきくが、
そういう印象をあたえる面も確かにあるが、
「街の不動産屋で、
その周辺のことをよく知っている人にきくのが一番いい」
「昔気質の街の不動産屋のなかには本当に親切な人がいますよ」
「いきなりとび込みでは何とも言えないが、
信用のある、親切な不動産を味方にもって探すのが
何といっても一番です」
というもっと実際的な声もきかれる。

少なくとも、私のように
しょっちゅう不動産屋の世話にならなければならない人は、
どうすればうまく不動産屋の知恵を借りられるか
ということを考える。
そうなると仲介手数料を、多少、
まけてもらいたいと考えることはあっても、
うまく逃げおおせようかと考えることはなくなる。

街の不動産屋で、
その街の事情に古くかり通じている人には、
その人なりの長所がある。

さきにも述べたように、
古くからその商売に通じている人たちは、
なまじ昔の値段のことを知っているだけに、
「高い高い」ということばかり頭にあって、
思い切って高い物を買う気にならない。
だから、そういう人が大金持ちになることはあまりない。
しかしそのアドバイスがつねに見当はずれということもない。

そういう人は街の変遷をずっと見てきているから、
未来のことはわからないけれども、
過去のことにはよく通じている。

たとえば、どこの町でも、水の出るところとか、
崖の崩れるところとか、地盤のゆるんでいるところとか、
実際に住んでみると、
とんでもない欠点のあるところがある。

街が発展し、人ロがふえると、開発業者が沼を埋め立てたり、
山を切り崩したりして宅地の造成をする。
表面だけ見ると、平地になっているし、
近隣にもボツボツ家が建ったりしている。

しかし、古くかりそのあたりのことを知っている人は、
そういうところには住む気を起こさない。
いざ災害の起こった時のことを考えるからである。

親切な不動産屋なら、はじめてのお客にでも、
その人のことを考えて、注意を喚起してくれる。
きくきかないはお客の勝手だが、
案外、的を射ていることが多いのである。

また商店街がどういう具合にできているか、
どの店が繁盛してどの店が繁盛していないか、
あるいは、どの通りが人通りが多く、
どの通りが商売が難しいか、
少なくとも過去と現在までのところは、
かなり正確な情報を持っている。

もちろん、そうした情報がつねに正しいということではない。
また今まで駄目だったところを
うまく繁盛させる道がまったく残されていないわけでもない。





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2013年9月15日(日)

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