至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第121回
ギネスビールのおいしい紋章

ビールの季節です。
原稿を書くてのひらにじっとりと汗が滲む日も
思わずうたた寝してしまった緑風の日も
悶々と、複雑な色味を帯びた夕焼けを見た日も
とにもかくにもビールです。

じゃあ
冷蔵庫を開けて冷えたビールをシュポッとやれば?
という話では、それがないのです。
やっぱりビールは生、
欲を言えば2杯目は樽詰めギネスがいい。
となれば、
やっぱりアイリッシュ・パブでしょう。

最近は駅ナカや街に、ガンガン進出している
アイリッシュ・パブ。
名前のままに、アイルランドのパブですが
その国の人にとっては
飲み屋というより社交場なのだそうです。
1日1回、または何度も立ち寄り
一息つく場所。
近所の人と立ち話しながら一杯飲る場所。
そして仕事を終え、家族で楽しむ団欒の場所。

そういえば昔、映画で見たそれも
おばあさん、おじいさん、お父さん、お母さん
何世代もの大人達が
いつものように顔を真っ赤にして喋りまくる、
そんなお酒の場で
子どもが走り回っている文化に
不思議な健全さを感じた覚えがあります。

ギネスビールは
アイルランドの首都、ダブリンで生まれた
上面発酵の黒ビール。
缶や瓶でも2種類(ドラフト/スタウト)発売されていますが
やはり樽詰め生は全然別モノです。
焙煎した大麦の苦味と深い燻香、
喉に引っ掛かるところがまるで無いまろやかな喉ごし。
そして
しっとりふんわりほわほわの泡。
この、きめ細かい泡が命です。

最初に
液体がグラスに注がれたばかりのときは
濁ったキャラメルのような色をしています。
それをじーっと待ち
だんだん、濁ったキャラメルは
漆黒の液体と、鮮やかなコントラストの白い泡に
くっきりと分かれる。
そこに再び注ぎ足します。

バーマンの
最後にしてもっとも重要な仕事はここ。
美しい泡をつくり、シャムロックを描く作業です。
泡の層の厚さは14〜21mm。
新雪のような表面に
サーバーから液体を滴らせ、
グラスのほうを上手に動かして描きます。

シャムロックはアイルランドの国花。
クローバーに似た(でも違うらしい)三つ葉の植物であり
父・子・精霊の三位一体の象徴でもあるのだとか。
しかし飲み手にとっては
完璧に注がれたという証、おいしさの紋章でもあるのです。


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2004年6月7日(月)

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