早くも無一文に
漁村では部落中の者が総出で砂糖を小船に乗せて沖まで運びはじめたが、突然、気象に変化が起り、大波が押し寄せてきた。荷積みもなかなかはかどらなかったのに、その上大波のために船の舵がこわれて故障を起したので、船はそのまま坐礁してしまった。
さあ、それからあとがたいへんである。沖に船が坐礁したまま夜が白々と明けてきた。部落をあげての密輸だったが、夜が明けてくると、警察もやってくれば、沿岸警備の兵隊も押しかけてくる。捕まったら、砂糖が没収されるだけでなく、人間まで逮捕されかねないから、私と友人はあたふたと逃げ出して夜明けの汽車にとびのった。
汽車の中は大混雑をしていたが、私は坐席を一つ見つけてそこに坐り込んだ。何しろ一晩中、一睡もしなかったので、すぐにうとうとして眠りにおちいってしまった。
ふと目をさまして、靴をはいていないのに気づき、あわてて靴をさがすと、どこにも靴が見当たらない。シートの下から隣の坐席まで探しまわったが、うとうとしている間に靴を盗まれてしまったらしい。戦後の混乱期には、往々にしてこんなことが珍しくはなかったが、それにしても人生の出発点で足元をさらわれるとは、如何にも象徴的な出来事であった。
とうとう靴下だけで駅のホームを歩いて外に出、人力車にとびのって家までたどりついた。船も砂糖もなくなってしまい、賠償を求めることもできず、私は無一文になってしまった。学生時代に読んだ『風と共に去りぬ』のレット・バトラーを夢見て、新しい人生をはじめようと思ったが、私のその夢も「風と共に」どこかへ消えてなくなっていた。
その頃、私はお嫁さんにもらいたいと思っていた人があった。その人は私たちが私立大学を設立しようとして動きまわったときに、パトロンを買って出てくれた、石炭屋のお嬢さんだった。私は自分が砂糖船で成功したら、レット・バトラーのように堂々と胸を張って会いに行くつもりでいたが、あれもこれもみんな夢のまた夢となってしまったのである。
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