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         第25回 
          師匠が愛した温泉 
        <人生なんて 知るもんか 勝手に生きりゃ それでいい> 
        襖(ふすま)いっぱいに書かれたヤンチャな文字と、 
          軽妙かつ辛辣(しんらつ)な言葉の数々に、 
          圧倒されてしまいました。 
        <酔うことよ 酒と煙草を止める奴ぁ 
           最も意志の弱い奴である> 
        <オイ、客よ、生まれてきたンだろ 
           なら酔えよ、そして文句をたれてりゃいい> 
        大広間に並ぶ8枚の襖に、 
          これでもかと言わんばかりに 
          次から次へと殴り書かれています。 
          書の主は、昨年の11月に他界した 
          天才落語家、立川談志師匠です。 
        ここは群馬県片品村の鎌田温泉「梅田屋旅館」。 
          4代目女将の星野由紀枝さんの話によれば、 
          落語が好きだった亡き主人が 
          高崎市で友人らと寄席を開いたとき、 
          出演した談志師匠をお連れして 
          酒を飲んだ夜に書かれたものだといいます。 
        「でも師匠は、その次にお見えになったとき 
          『この間は酔っぱらっていたから』と今度は隣の部屋に 
          素面(しらふ)で書かれていかれました(笑)」 
          そういって開けた中広間には、襖4枚ぶち抜きで書かれていました。 
        <何ィ俺は素面だァ 
           この野郎人生を何だと思ってやんでぇ 
           人生なんて全て成り行きだァな 
           決断なんて成り行きに押した 
           印でしか過ぎない ウヒッィーーー> 
        酔っていても、素面でも、 
          変わらないところが師匠のすごいところです。 
          つくづく偉大な落語家が、また一人いなくなってしまったことに 
          淋しさを感じます。 
        大広間で、こんな言葉を見つけました。 
        <俺の人生 梅田屋程度で 充分なのだ> 
        一見、侮蔑しているような言葉ですが、 
          くり返し声に出して読んでみると、 
          なんとも温かい師匠の思いが伝わってきます。 
          最高のほめ言葉ではないでしょうか。 
        いつか私も温泉宿で、 
          こんなシャレた言葉を吐いてみたいものです。 
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