温泉で元気・小暮淳

温泉ライターが取材で拾った
ほっこり心が温まる湯浴み話

第45
源泉王と呼ばれる湯の達人

群馬県北部、水上(みなかみ)温泉郷の8温泉の1つ。
谷川岳の登山口にある
谷川温泉「水上山荘」の2代目主人、松本英也さんは、
温泉ジャーナリストの故・野口悦男さんから
“源泉王”と呼ばれた湯の達人です。

館内にある男女別の内風呂と
露天風呂、貸切風呂はすべて源泉かけ流し。
もちろん循環も加水も加温もしていません。
なのに一年中、沸かしも薄めもしないで、
0.1度きざみで温泉の温度を調節しているといいます。
さて、その秘密は?

初めて同館を訪ねた日に、
そんなトンチのようなクイズを出されてしまいました。

最初は熱交換式の装置を使っているのかと思いましたが、
それではあまりにも答えがありふれています。
もっと単純な方法に違いありません。

私は、ふと以前にも同じような話を
湯守(ゆもり)としたことを思い出しました。
そこは湯量が豊富な自家源泉を数本所有している温泉宿でした。
すぐさま「温泉分析書」をチェックすると、案の定、
こちらも3本の自家源泉を所有しています。
総湯量は毎分520リットル。
しかも3本の源泉の温度は、
31.8度、45.5度、54.4度と異なっています。

答えは明白です。
3本の温度の違う源泉を混合することにより、
季節や天候に左右されることなく適温に調節していたのです。

「さすがですね、お見事です。300人に1人の正解率ですよ」
と主人に、ほめていただきました。

昭和50年代のこと。
好景気の温泉ブームにのって、旅館を大きくして、
浴槽の数を増やそうと考えた時期があったといいます。

「でも、その時、夢枕に温泉の神様が現れて言ったんですよ。
『温泉は足りるのか?』ってね。
ブームにのって浴槽の数を増やしたら、
温泉を水増しすることになり、結果、お客様をだますことになる。
だから、与えられた湯量に合った浴槽を造ることにしました」

一切、源泉に手を加えずに湯を守り続けている、
湯守としての主人の姿勢に心を打たれました。
さすが“源泉王”と呼ばれる湯の達人です。


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2012年5月2日(水)

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