元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第466回
猪瀬直樹という情報開示の「射撃手」

話をすこし飛ばします――

情報公開といえば、
「道路の権力」(文芸春秋社)という分厚い本が
送られてきました。
道路4公団など民営化の青写真を
10年も前から周到に作成していた
ジャーナリストの猪瀬直樹さんの作品で、
じつに国民が知らないことを伝える、
手に汗握るノンフィクション大作です。
いま必読の一冊でしょう。

民営化推進委員会の会議内容の公開を
執拗に迫まるくだりは圧巻です。
「原則公開は重要である」
――メディアを通じて国民への公開となる――と。
また、最後にまとめ役の委員長が逃げ出すとき
「逃げたら勝ちという文化はよくない。
僕ね。ストーカーでもいいんですよ」と追い討ちをかけます。
猪瀬さんって、テレビ映りの顔つき通り、
スッポンのように食らいついたら離さない原則論者ですが、
なかなか押したり引いたりも上手な
粘り腰のジャーナリストなんですね。

猪瀬さんは、僕が週刊ポストという雑誌の編集長の頃、
4半世紀前の昔話となりますが、
「ミカドの肖像」という大作の執筆を
お願いしたことがありました。
この本はそれまではタブー視されていた、
近代天皇制形成の仕組みを、記号論的というか
いわば俯瞰的に「情報公開」した長編ノンフィクションです。
その前に「天皇の影法師」という名品を著していましたから、
まさに10年、20年がかりの大作でした。
1987年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞しましたから、
読んだ読者も多いと思います。

爾来、特殊法人が支配する日本社会の病巣構造を執拗に暴く、
「日本国の研究」を書き続け、
「改革なくして成長なし」を標榜する小泉首相が登場するに及んで、
最大利権の巣窟といわれる道路公団民営化の青写真を持って直談判。
とうとう民営化推進委員に任命されて
話題の人になってしまうわけです。

「道路の権力」という本は、
新聞やテレビでもさっぱり分からない、
国土交通省の役人と、
いわゆる道路族、抵抗勢力といわれる政治家たちの癒着を
同時進行ドラマのように謎解きしているわけですから、
まさに時宜を得た「情報公開」ドラマということになります。
退路を絶たれた小泉首相がどう対応するのか?
またしても高速道路の新規建設を謀む、
道路公団と国交省の情報隠工作は止まず、
メディアがリーク情報に踊っています。
たとえ「変な作家」と揶揄されても、
この監視役の最も至近距離にいる射撃手が
猪瀬直樹さんでしょう。

20年も昔のこと――
若き日の猪瀬さんと
「メディアの権力」の著者、D・ハルバースタム氏に
会いにいったことがありました。
米国の赤狩り旋風の仕掛け人・
マッカ―シー上院議員の狡猾な情報操作と
騙されるメディアの体質に警告した、
いくつかの逸話を思い出しました。
当時、どれだけの米国民が被害を蒙ったか?

情報公開とは、よその国の絵空話ではありませんよ。
明日はわが身のキモですよ――と、
「道路の権力」はそれを教えてくれていると思います。


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