元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第843回
安岡章太郎/著「雁行集」を読む

先日、敬愛する作家のおひとり、
安岡章太郎さんから
「雁行集」という珠玉の随筆集が、
自筆サイン入りで
送られてまいりました。
希代の“織司”といわれた田島隆夫さんの
反物裂(きれ)地の紺色を
表紙にあしあらった、
なんとも手肌に温かみが伝わる
凝り性の安岡さんらしい特装本です。

たまたま、僕が椎間板ヘルニアのリハビリで
3週間ほど近くの整形外科に
入院している最中でしたので、
たっぷりと洒脱な名文の数々を
ベッドの上で、
愉しませていただいくことになりました。

安岡さんといえば、
現代日本文学の重鎮、
活躍中の芥川賞作家では最長老です。
若き日の脊椎カリエスやら、
近年のメニュエル病、
さらに胆管の手術といった、
いくつもの難病も乗り越えて、
80歳をゆうに超えて、
ますますの健壮、健筆の逞しい命のエネルギー、
これには感嘆いたします。

さて、この本は昭和53年から今日まで、
著書未収録の作品40数点を
集めた随筆集ですから、
まさに、半世紀にわたる数々――、
母親の死をテーマにした名作「海辺の光景」から、
両親の家系のルーツを探る
「流離譚」「鏡川」といった作品までの裏話、
さらに、“第3の新人”と呼ばれた作家仲間の、
遠藤周作さん、吉行淳之介さんや
小島信夫、庄野潤三といった方々との交友録、
そして、戦争と日本人といった、
洞察鋭い世相批評を
まさに“人間の縁”が織り成すドラマの数々を、
一気に読めるわけですから、
安岡ファンならずとも、
読めども読めども、
興味の尽きない“随想の泉”のような作品なのです。

ちなみに、収録エッセイの中で、
1959年に書かれた
「のらくら日記」3月21日のお彼岸の項目には
当時、直木賞作家としてならしていた、
邱永漢さんとの交流もちらりと覗かせます。
「邱永漢、来訪。雑談3時間」。

HiQの読者のみなさんも、
この年末年始の休みに、
ぜひ、読んで見てはどうでしょうか?
文章が洒脱でうまいことは天下一品です。
日本人がうっかり忘れてしまいそうな、
「人の縁」の有難さや不思議さといった、
この50年間の来し方行く末の大切なことが、
しみじみと、ときにユーモラスに思い起こされる、
愉しいエッセイ集です。


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2004年12月17日(金)

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