旅行記者・緒方信一郎さんの
読んでトクする旅の話

第90回
旅行に来てよかったと思える瞬間

安い航空券の探し方やホテルの賢い利用方法など、
旅のノウハウを記事にすることが多い私ですが、
現地では、そんなネタ集めばかりしているわけではありません。
旅人気分を十分に楽しんでいます。

かれこれ5年以上前になりますが、
ある雑誌の取材で、旅行作家の蔵前仁一さんに
インタビューしたときのことです。
先方はバックパッカーのカリスマ的存在で、
安宿で個性的なキャラクターを持つ人物に出会った話や
北京から上海までの1500kmもの道のりを
安い列車に揺られて移動したことなど、
貧乏旅行のよさを書いています。
一方、こちらは快適なホテルに安く泊まる方法や、
飛行機で楽に、しかも安く移動するノウハウなど、
限りなく贅沢な人間の欲望に則った記事を書いている。
話が合わなかったら、どうしよう。
取材に向かう道すがら、そんな心配をしていました。

しかし意外といいますか、それは無用な心配でした。
インタビューも終わりに近づいた頃、こんな質問をしてみました。
「旅行をしていてよかったと思える瞬間はどういうときですか」
返ってきた答えは、こういうものでした。
「たとえばヨーロッパの山の中を列車で走っているとき、偶発的に
ハッと息を飲むような風景に出会うときがある。そんな瞬間です」
この答えは、まさに私の旅の価値観と同じでした。
考えてみれば、それは普遍的な旅の楽しみのひとつです。
貧乏旅行者だけでなく、旅のスタイルを超えた視点を持つ。
だからこそ、蔵前さんに共感する読者が数多くいるのでしょう。

おいしい料理や快適なホテルの部屋なども印象に残りますが、
旅先で見た印象的な光景は、ずっと頭に残る貴重な財産となる。
列車の中から見た冬のスイスの山並み、
オーストラリアで見た、透き通った紫色の夕日、
タイの島で見た灼熱の太陽に照らされた真っ白な砂と透き通った海、
気が滅入ったときなどに思い出すと癒される気分になります。
これこそ、旅の付加価値。この連載のサブ・テーマに掲げている
ように、「でもお金に代えられない価値もある」というわけです。
旅先でなるべく多くの「忘れられない風景」に出会えますように。


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