弁護士・高島秀行さんの
読んだらわかる訴訟の話

第39回
事実関係に争いがなくても訴訟になる?

前回、当事者のどちらかが嘘をつくから訴訟になる
という説明をしました。
実を言うと、どちらも嘘をついていないのに
訴訟になるケースもあるんです
これには、2つのケースがあります。

1つは、
一方が法律上やらなければならない義務があることは
わかっているにもかかわらずやらない
ケースです。

例えば、お金を借りた方が、500万円を借りて、
返済期限は来ているから
返済しなければならないことは認めているけれども、
払わないようなケースです。

事務所を借りて家賃を支払わないので
賃貸借契約を解除され、
立ち退かなければならないことを
借主が認めていても出て行かないケースも同じです。

このような場合には、契約書があっても、
相手が事実関係を認めていても、
貸金を回収したり、
事務所から立ち退かせたりするためには
訴訟をするほかありません。
訴訟をするのは、判決を取って、
強制執行をするためです。

このようなケースでは、
お金の借主は、事実関係を認めた上で、
分割払いにして欲しいという交渉をし、
建物の借主は明け渡しを待ってもらう
という交渉をするのが普通です。

もう1つのケースは、
事実関係には争いがないのに、
評価が分かれる
ケースです。

例えば、浮気の事実に争いがないけれども、
慰謝料の額について、妻は1000万円請求し、
夫は50万円くらいなら支払うと言っている場合です。

それから、購入した機械の不具合がある事実は
争いがないけれども、
買主は、不具合は全く発生してはならないから
完全に修理するか
契約を白紙に戻して欲しいと請求しているのに対し、
売主がそのくらいの不具合の発生は当然で
我慢して使うべきで
修理の必要もなければ契約を白紙に戻す必要もないと
主張しているようなケースもあります。

最初の浮気のケースは、
浮気の慰謝料の額がいくらが妥当かという点で、
次の機械のケースでは、
購入した機械はどのような状態にあるべきなのかという点で、
どちらも法的評価の争いがあるのです。

こういうケースでは、
事実関係に争いがなくても、
評価の点で争いがあるので
当事者で折り合いがつかないのであれば、
裁判所に判断してもらわなければ決着しません。
そこで、訴訟ということになります。


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