弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第544回
塾が講師の殺人の責任を

以前、学習塾講師が、
塾の営業時間中に、塾内で生徒を殺害した事件がありました。
塾講師は、もちろん殺人罪で、有罪となりました。
これは、刑事事件の話です。

殺人などの刑事事件については、
被害者は死亡などにより損害を被っていますので、
損害賠償請求することもできます。
これは、民事事件の話です。

被害者の両親は、アルバイト先であった学習塾を相手に、
塾講師が殺人を犯したことにより損害を被ったとして
損害賠償請求を求め、
この度、裁判所は、
両親の学習塾に対する損害賠償請求を認めました。

この従業員が被害者に損害を与えたときに、勤務先に対し、
損害賠償責任を負わせる制度を、「使用者責任」と言います。

もちろん、従業員が被害者に損害を与えれば、
いつも、その勤務先にも損害賠償請求できるかというと、
そうではありません。

勤務先が責任を負うのは、
従業員が、勤務先の仕事を行うのに関連して、
被害者に損害を与えた場合です。

新聞報道からすると、今回のケースでは、
学習塾は、両親の訴えに対し、
使用者責任があること自体は争わず、賠償金額を争ったようです。

学習塾の営業時間中に、
教室に1人生徒を残して、その生徒を殺害したことから、
学習塾の仕事を行うのに関連して殺人を行ったということは、
争っても、両親の気持ちを逆なでして、
他の生徒やその両親などの信用を失う
と考えたからかもしれません。

それで、判決で、認められた賠償金額が約9900万円です。
雇い主は、通常、従業員が、営業時間中に、
職場で、殺人をするとは思わないのが普通ですから、
雇い主にとっては厳しい判決です。

しかし、被害者のご両親にしてみれば、
学習塾の営業時間中に、学習塾で、
学習塾の先生に殺されたんだから、
学習塾が責任を負うのは当然、
ということなんだと思います。


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2010年4月8日(木)

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