弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第601回
自殺者遺族に賠償責任?

先日、日経新聞に、自殺者の遺族が、
不動産の貸主から、高額の賠償請求をされて困っている
という記事が掲載されていました。

貸主側の理屈は、自殺によって、
マンションなどを借りる人や買う人がいなくなるから、
当然、その損害を賠償してもらうということです。

判例上も、自殺があったことにより、
建物に瑕疵(欠陥)があるとして、
説明を受けずに購入した場合、
買主に損害賠償請求や代金減額請求を認めています。

したがって、売主(建物の所有者)には、
その分の損害が発生していることになります。

しかし、裁判で認められる損害は、
建物の所有者が思っている損害が全て損害だと
認められるわけではありません。

自殺の態様が、部屋の中での首吊りなのか、
屋上からの飛び降りなのか、睡眠薬なのか、
部屋の中で亡くなったのか、
病院で亡くなったのかなどによっても異なりますし、
報道がされたのかによっても異なります。

裁判では、購入価格の1%としてものもありますし、
14%くらい認めたものもあります。

また、土地についての損害を認めたものと
認めなかったものもあります。

なお、判例は遺族に対する請求でなく、
買主の売主に対する損害賠償請求です。

だから、自殺者の遺族としては、
損害賠償を請求されたからといって、
全額支払わなければならないというわけではなく、
貸主も損害を被ったからといって、
自分が思っている損害を
全部請求できるというわけではありません。

そのことは、一般の損害賠償請求事件と同じです。
新聞記事では、損害賠償の基準を設けるように運動している
ということでした。

ただ、自殺者の遺族としては、自分の責任ではなく、
あくまでも自殺者の責任を相続した場合に責任を負うので、
他に遺産がなければ相続放棄をすることにより、
自殺による賠償義務を負わなくて済むこととなります。

自殺されると、遺族に悲しみを与えるだけでなく、
法律上迷惑もかかるので、
当たり前ですが、自殺しないことが一番です。


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2010年11月11日(木)

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