第74回
人民元の切り上げは無い?

では、いつになったら人民元は
ハードカレンシーになるのでしょうか。
私個人的には、人民元は当分の間、
ハードカレンシーになる事はおろか、
切り上げさえ行われないと思っています。

人民元のレートはここ数年、
1米ドル=8.28人民元で安定しています。
これは人民元の為替レートが米ドルと連動して推移する
ドルペッグ制を採っている為です。
このレートが現在の中国の実力からすれば、
不当に安いのではないか、という声が各国から上がり、
中国への通貨切り上げ圧力は日に日に強まっています。

世界銀行の発表によれば、現在の中国の実力からすると、
人民元の適正レートは1米ドル=2人民元だそうです。
1米ドルが8.28人民元から2人民元になると
何が起こるのでしょうか。
今なら、中国の輸出企業が1万米ドルのものを輸出した場合、
海外企業から米ドルを入金して人民元に兌換すると、
82,800人民元(124万円)になります。
しかし、1米ドルが2人民元になってしまうと、
兌換しても20,000人民元(30万円)にしかなりません。

これでは輸出企業は赤字になってしまいますので、
輸出価格を上げざるを得ません。
今まで通りの売上を得ようとすれば、
輸出価格を一気に4倍にしなければなりません。
そうすると、世界にデフレの嵐を撒き散らしていた
中国製品の輸出価格が大幅に上がり、
今まで中国製品にやられっぱなしだった
各国の国内企業が息を吹き返し、
国内の経済も良くなって行き、
延いては、世界的な不況にも歯止めがかかる、
というのが、中国以外の国々の主張です。

しかし、中国にとってはそれは受け入れ難い話です。
そんな事を許してしまえば、
中国の輸出産業は壊滅的な打撃を受け、
好調な国内経済に大きな影響を及ぼす事になります。
中国にとって輸出産業は、外貨を稼いでくれる大切な産業です。
中国の外貨準備高は2003年3月の時点で3,000億米ドルを超え、
日本に次いで世界第二位の座を堅持しています。
この膨大な量の外貨で、アメリカや日本の債権を買えば、
それらの国に対する発言力は更に増す事になります。

こうした背景を考えると、「中国発世界同時デフレ」とか
「デフレ輸出国」などと諸外国から揶揄されて、
人民元の切り上げ圧力が強まったとしても、
中国政府としては、このままドルペッグ制を堅持し、
外貨準備高を高める現在の政策を
続けていくのではないかと思うのです。


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