第114回
近代化と雇用のジレンマ

国有企業は常に大量の余剰人員を抱えています。
実際、私が丸紅北京支店にいた時に、
地方の炭鉱に出張に行くと、
昼間から暇そうにおしゃべりしたり、果物を食べている人が、
構内にたくさんいました。

山西省に大同炭鉱、という中国最大の炭鉱があります。
同社の年間石炭生産量は3,000万トン、
従業員数は実に26万人に上ります。
私が東京時代に担当していたオーストラリアの炭鉱が、
年間生産量300万トンで、従業員数が700人でしたので、
単純に計算すると同等の生産規模の場合、
大同炭鉱の従業員は、
オーストラリアの炭鉱の40倍近くいる事になります。

もちろん、大同炭鉱に限らず国有企業は、
企業内に病院、学校、食堂など、
生活に必要な施設を全て整えており、
大同炭鉱の従業員には、
そうした付帯施設で働く人達も含まれていますので、
単純比較は出来ないのですが、
それにしても過剰な人員を抱えている事に変わりはありません。

現在、中国の大規模炭鉱のほとんどで、
ロングウォール(長壁式採炭)と呼ばれる
世界で最も効率が良いとされる採炭方法が採られています。
この方法だと採炭の現場は、
3-4人でオペレート出来てしまいます。
炭鉱の構内でたくさんの人がぶらぶらしているのを見ると、
いっその事、ツルハシとバケツリレーで人力採炭した方が、
どうせ払わなければならない給料ですし、
高価なロングウォールの機械を買うより
コストが安いのではないか、という気がします。

中国の炭鉱の経営者達も絶対そう考えていると思うのですが、
そんな事をすると、「中国の石炭業界は原始時代に戻った」
などと諸外国からバカにされるに決まっていますので、
「メンツ」重視の中国政府としてはそれだけは許可出来ない、
という所だと思います。
近代化すればする程雇用が失われる。
これは中国にとって一つの大きなジレンマです。

炭鉱に限らず、
中国では「無理やり仕事を作って、雇用を創出している」
と感じられる職場がたくさんあります。
中国では高速道路がものすごい勢いで整備されています。
中国の道路工事現場は異常に人が多く、
ほとんど「手作り」で道路が作られていきます。
これも機械を使うと人が要らなくなってしまい、
雇用創出効果が小さくなってしまう為であると思われます。


←前回記事へ 2003年7月23日(水) 次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ