第123回
一番恐いのは「大衆の不満」

1990年代後半になると、「三陪服務」をしているカラオケも
ほとんど取り締まられなくなりました。
取り締まりが厳しくなるのは、春節の前とか、全人代の前とか、
何か大きなイベントがある時だけで、
普段はほとんど黙認状態になりました。
「三陪服務」が共産党一党独裁体制の根幹を
揺るがす訳ではありませんし、
むしろ何でもかんでも厳しく取り締まって、
大衆のストレスや不満が一気に爆発する様な事態を避ける為には、
ある程度のガス抜きは黙認しよう、という事なのでしょう。

中国政府はこうした比較的「無害」なものに就いては
黙認するのですが、
「社会の安定を崩すもの」、「国家の制度への挑戦と見られるもの」、
延いては「共産党の一党独裁体制を脅かすもの」に就いては、
信じられないぐらい厳しい態度で臨みます。

例えば脱税です。
日本では脱税が発覚しても、延滞税、重加算税を払えば、
裁判で実刑判決が出る事はまれかと思います。
しかし、中国では「国家の制度への挑戦」と捉えられ、
脱税の額が大きいと、死刑判決が出る事もありえます。

また、海賊版のVCDやDVDの製造業者が
死刑判決を受けた事もあります。
これは「国家の制度への挑戦」と捉えられたとともに、
海賊版天国と揶揄される中国が、
「ほら、こんなに厳しく取り締まってますよ」と
諸外国にアピールする目的もあったかと思われます。

現在の日本では、人を1人殺しただけでは、
死刑はおろか、へたをすると無期懲役にもなりませんが、
中国では「共産党の一党独裁体制を脅かす」
と判断された犯罪に対しては、
人を殺していなくても、割と簡単に死刑判決が出て、
その翌日には死刑が執行されている様です。

中国の外交政策や内政に関しても、
「共産党一党独裁体制堅持」の原則は貫かれています。
中国政府が最も恐れているのは、アメリカでも台湾でも無く、
中国国内の「大衆の不満」です。
人口の5%、6,000万党員を誇る中国共産党も、
その他95%の一般大衆の支持なくしては、
独裁体制を堅持できません。

胡錦涛国家主席が「大衆重視」政策を打ち出すのも、
経済政策に最も力を入れるのも、
アメリカや日本に対して厳しい外交政策を展開するのも、
共産党内部の腐敗を徹底的に取り締まるのも、
全人民の一致団結により、SARSとの戦いに勝利した、
と宣言するのも、
カラオケの「三陪服務」を黙認するのも、
全ては「大衆の不満」を和らげ、矛先を外に向け、
「共産党一党独裁体制を堅持する為」と考えれば、
中国政府が打ち出す政策は、
非常に分かり易いものばかりです。


←前回記事へ 2003年8月13日(水) 次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ