第692回
第二幕に入った「中国先富論劇場」

北京で開催されていた、
今年の全国人民代表大会(全人代)は、
16日に閉幕しました。
今年の全人代の大きなテーマは、
「民生問題の改善」と
「社会公平・正義の維持」でした。

「民生問題の改善」の具体策としては、
農業、農村、農民の
いわゆる「三農問題」解決のための財政支出を、
前年比さらに15%増加させ、
農村の医療、教育、社会保障などに
充てることにしました。
また、土地の強制収用、立ち退き問題や、
環境汚染問題についての対策も
徹底することにしました。

「社会公平・正義の維持」については、
都市と農村、地域間の発展不均衡の是正、
個々人の収入格差の是正、
共産党幹部による職権乱用や汚職の根絶、
などが重点項目として挙げられました。

その一方で2007年の経済成長目標は8%と、
2006年の実績10.7%と比べてかなり低めに設定、
「経済成長重視路線」から「国内安定重視路線」への
明らかな路線の変更が図られました。

中国全体を同じ速度で豊かにするのは
無理だと悟ったケ小平が、
「先冨論」に基づく
改革開放政策を始めてから28年。
「中国先富論劇場」はようやく
「先に豊かになれる者から豊かになれ」
という第一幕から、
「豊かになった者の冨を、貧しい者に分配せよ」
と題された第二幕に入ったようです。

こう言うと、中国共産党の現執行部が
ケ小平の遺志を継いで、
満を持して第二幕に入ったように聞こえますが、
実際は民衆の不満が爆発するのを防ぐために
「第二幕に入らざるを得なかった」
というのが正しいのかもしれません。

何しろ今の中国共産党にとっては、
人民のみなさんから
「共産党はもういらないよ」と言われるのが
何よりも怖いので、
へたな民主主義国家よりも、
より強く民意を意識した
政権運営が行われています。

以前、国内経済が資本主義化する中で、
共産党政権の正当化を維持するために
「社会主義市場経済」という矛盾をはらんだ造語を作って、
世界の失笑を買った中国。
今度は「一党独裁民主主義」なんていう
造語が出てくるのかもしれません。


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2007年3月26日(月)

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