第999回
「没事儿」を連発する人たち

私が最も嫌いな、
最も聞きたくない中国語の単語は
「没事儿(めいしぁーる)」です。

「没事儿」とは「事」が「没(ない)」、
即ち「大したことない」、「大丈夫」という意味です。
標準語では「没事(めいしー)」なのですが、
北京の人たちは北京方言独特の
「儿(あーる)」を最後に付けて
「没事儿(めいしぁーる)」と発音します。

なぜ私がこの「没事儿」を聞きたくないのかと言うと、
中国の人たち、
特に北京を始めとする中国北部の男性の多くは、
かなり大丈夫ではない状況に陥っても
「没事儿」の一言で済ませてしまう場合が多いからです。
そして「没事儿」と言われて
本当に大丈夫だったためしは一度もないからです。

「このままだと納期、間に合いませんよね!」
「没事儿」
「納期に間に合わないと、
お客さんにものすごい額の損失が出ますよ!」
「没事儿」
「お客さんから損害賠償請求されたら、
誰が払うんですか!」
「没事儿」
とまぁ、万事こんな感じです。

この「没事儿」は時として
「没問題(めいうぇんてぃ、問題ない)」や
「没関係(めいぐぁんし、関係ない)」に
置き換えられたりするのですが、
どれでも意味はだいたい同じで
「細かいことをごちゃごちゃ言うな!」
ということです。

彼らには悪気はない、と言うか、
逆に「かなり大変な事態に陥っても、
「没事儿」と言って泰然自若としていられる
肝っ玉の大きなオレ様」に
酔っているようなところがあります。
中国の北部では上記のような
「この人ちょっと頭が鈍いんじゃないのか」
と思わせるぐらい物事に動じない人こそが、
大人物、男の中の男なのです。

確かに大変な事態に陥った時に
あたふたしてもよい結果は得られませんし、
ここまで来たらなるようにしかならない、
というのもその通りだと思います。
しかし、中国に来てから随分物事に動じなくなったとは言え、
彼らと比べるとまだまだ肝っ玉の小さい私としては、
大変な事態に陥ればやはりあたふたしてしまいますし、
損失を最小限に食い止めるために
最後の悪あがきもしてしまいます。

彼らのように何でも「没事儿」で済ませることができたら
仕事もさぞや楽だろうなぁ、とちょっとうらやましく思う反面、
「没事儿」を連発する人たちとは絶対一緒に仕事をしたくない、
と私は思うのでした。


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2009年3月6日(金)

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