第1064回
マーケティング戦略で負けた中国の民主化運動

衰退する中国の民主化運動。

中国は先月、1989年の天安門事件から20周年を迎えましたが、
中国共産党は同事件の「反革命暴乱」という評価を変えず、
当時、民主化運動を指導していた海外亡命組は、
記念白書を出版したり、民主化基金を立ち上げたりしましたが、
それほど大きな盛り上がりは見られませんでした。

また、昨年12月に300人を超える知識人が
共産党の一党独裁を批判し、中国の民主化を求めて署名した
「08憲章」がインターネット上に発表されましたが、
先日、その呼びかけ人の1人で作家の劉暁波氏が、
国家政権転覆扇動などの容疑で逮捕されてしまいました。

中国共産党は今のところ民主化運動の抑え込みに
完全に成功していると言えます。

中国の民主化運動はなぜこれほどまでに衰退してしまったのか。
それは、民主化運動の指導者たちが
マーケットのニーズの変化を
捉え切れていなかったからなのではないかと思います。

天安門事件の当時学生だった現在40歳台の人たちは、
子供の頃、中国共産党が引き起こした文化大革命の「せい」で、
多くの人がえらい苦労をしています。

その後も、人生のいろいろな場面で
「中国共産党=腐敗」という構図を見せ付けられ、
「この国を良くするためには、
中国共産党の一党独裁を排除して民主化するしかない」
という意見にも賛同しやすかったのではないかと思われます。

一方の、現在、インターネット上で
オピニオンリーダーとなっている1980年以降に生まれた、
いわゆる「80后(ぱーりんほう)」の人たちは、
子供の頃から中国共産党が推し進めた
改革開放政策の「おかげ」で、
どんどん豊かになる生活を享受してきました。

この世代の多くの人は「共産党員の腐敗は許せないが、
民主化による混乱は中国の発展の妨げになる」と考えています。
そして「中国共産党の浄化は進めなければいけないが、
中国共産党が中国を世界の強国に押し上げることにより、
我々のプライドは満たされ、生活も更に良くなる」という
いわば、左翼ナショナリズム的な考え方を持っています。

そこで、中国共産党がうまかったのは、
そうしたマーケットのニーズを良く理解し、
中国共産党と腐敗党員を分離して、
「みなさんと一緒に腐敗党員を撲滅していきたい」と
網民(わんみん、ネット市民)の側に立ったことです。

これでは民主化勢力は立つ瀬がありません。
中国の民主化運動の衰退は、
中国共産党のマーケティング戦略の勝利、
と言えるのではないでしょうか。


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2009年8月5日(水)

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