第1117回
崩れる「大卒=エリート」の図式

私が8年前北京で起業したときに、
一番最初に雇った社員は
大学を出たばかりの新卒の女性でした。

月給は3000元(39,000円)。
中国ビジネスに興味がありそうな日本企業の連絡先を
ネットで調べてリストにする、とか、
そうした企業に営業のメールを送る、
などという比較的簡単な作業をお願いしていたのですが、
度々「私はこんな仕事をするために、
大学で高度な知識を習得したんじゃありません!」
と言われ、扱いに困ったものです。

当時の中国は、大卒者がまだそれほど多くはなく、
「大卒=エリート」という図式がまだ通用していました。
更に、彼女たちは一人っ子政策の第一世代、
いわゆる「80后」と呼ばれる世代であるため、
両親やおじいちゃん、おばあちゃんに
「この子は天才だ!」と言われながら、
甘やかすだけ甘やかされて育ってきています。
このため、新卒の新入社員は手が付けられないほど
鼻高々の天狗状態で会社に入社してきたのです。

この経験で「新卒トラウマ」を負ってしまった私は、
その後「新卒は絶対に採用しない」
と心に決めていたのですが、
先日、8年ぶりに新卒の社員を採用しました。

その心変わりの背景には、
この8年間で大卒者の雇用状況が激変したことがあります。

2001年に100万人ちょっとだった中国の大卒者数は、
今年2009年には610万人と約6倍に増加、
大卒者は珍しい存在ではなくなり、
「大卒=エリート」という図式は完全に崩れ去りました。

これは中国政府が来るべき少子高齢化社会に備えて、
国内産業の高付加価値化を推進するために、
中国国内に大学を大量に新設し、
国民の高学歴化を図っているためです。
これはこれで非常に正しい政策だと思います。

しかし、大卒者を受け入れる側の産業界は、
そんなに急速に産業構造を変えられるはずもなく、
肉体労働者が不足する一方、大卒者は大量に余る、
というアンバランスな状態に陥ってしまいました。
このため、今年は新卒の610万人に、
昨年以前に卒業したのに
まだ就職が決まっていない100万人を加えて、
710万人の大卒者が就職活動をしましたが、
まだ200万人ほどの就職先が決まっていないようです。

こんな超が付く就職氷河期の中、
当社の新卒新入社員の月給は
2000元(26,000円)と8年前の彼女の2/3。
にも関わらず、
「私はこんな仕事をするために...」
などということは一言も言わず、
一生懸命働いてくれています。

彼女にはどんどん付加価値の高い仕事をしてもらって、
人材マーケットの大卒初任給の相場が
どんどん下がっていくのを尻目に、
高い給料とやりがいのある仕事を
自ら掴み取ってほしいと思っています。


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2009年12月7日(月)

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