第1119回
80后、皇帝から蟻へ大幅降格

就職超氷河期により増加する中国の大卒ワーキングプア。

彼らの多くは
蟻のように集まって家賃や食費が安い大都市郊外の村に住み、
蟻のように群れを成して毎朝都市の中心部に通勤するため、
「蟻族(いーずー)」と呼ばれ、今中国で注目されています。

「蟻族」が注目されるきっかけとなったのは、
今年9月に廉思という北京大学の博士研究員の方が出版した
「蟻族−大学卒業生が集まり住む村の実録」
(広西師範大学出版社)という本です。

この本によれば、「蟻族」は大卒ですが、
失業あるいは半失業の状態にあり、
仕事はあったとしても臨時雇い。
大都市郊外の村にある、家賃は安いけれども、
狭くて、衛生状態の悪い賃貸住宅に
数人共同で住んでいます。

月収は1000元(13,000円)前後、
うち、300元(3,900円)が家賃支払いに消えていきます。
食事は1日2回だけ、都市の中心部にある職場までの通勤は
バスで片道2時間、往復4時間かかるのだそうです。

こうした「蟻族」は北京だけでも10万人、
全国では100万人以上いると推定されています。

この本の著者は「蟻族」を、
「農民」、「農民工(出稼ぎ労働者)」、
「下崗職工(リストラされた失業者)」に続く
第4の社会的弱者集団と分類しています。

以前の中国では、農民が自分の子供を
社会的弱者である農民という「カースト」から解き放つために、
唯一の収入の源である田畑まで売り払って
子供の大学進学資金を準備する、という例もありましたが、
今や大学を出ても将来が保証されることはなく、
「農民」と同じ社会的弱者集団である
「蟻族」になってしまう可能性もあるのです。

「蟻族」の大部分は22-29歳、
1980年以降に生まれたいわゆる
「80后(ぱーりんほう)」です。
「80后」と言えば、
1979年に始まった一人っ子政策のおかげで、
両親と両方の祖父母を合わせた
6つのポケットから惜しみなくおカネが注がれ、
「小皇帝(しゃおほぁんでぃー)」として
甘やかされるだけ甘やかされて
育ってきたと言われる世代です。

彼らは大学を卒業して、今までの「皇帝」から
いきなり「蟻」まで大幅に降格され、
外の世界の厳しさを身に沁みて体験しているものと思います。

しかし、見方を変えれば、
これからの中国を担っていく「80后」の世代が、
甘やかされた「皇帝」のまま育っていってしまうより、
「蟻」のように踏まれても踏まれてもくじけない
不屈の精神を持って、
苦労をしながらコツコツと地道にのし上がっていった方が、
彼らのためでもあるし、延いては、
中国の将来のためになるのではないか、と私は思います。


←前回記事へ

2009年12月11日(金)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ