第1231回
理想的状態にある今の中国経済

先日、中国の国家統計局が発表した
7月の消費者物価指数(CPI)は、
前年同月比で3.3%の上昇となりました。

CPIの上昇率は、
6月は2.9%まで鈍化していたのですが、
中国各地で洪水が相次ぎ、
農作物などの食品価格が高騰したことなどから、
前月比で0.4ポイントのアップとなり、
「3%以下に抑える」という
政府の年間目標を上回りました。

私は今年の1月、
第1138回 中国株バブルは必ずはじける」で、
「CPIが上がってきたらすぐ逃げろ!」というお話をしました。
「中国政府が最も恐れているのはインフレである。
CPIが2007年初めのように2-3%まで上がってきたら、
中国政府は利上げ、預金準備率の引き上げ、
人民元高誘導などあらゆる手段を駆使して、
インフレを力ずくで退治しようとするであろう。
そうなれば、株価は急落する」というのがその根拠です。

今回、そのCPIが3.3%まで上がってきたわけですが、
結論から言うと、株式市場から逃げる必要は全くありません。

なぜなら、まずはだいたいが、
今の中国では過剰流動性があっても、
誰も株式などには興味がなく、
最初から全くバブル状態ではないからです。
中国人の友人と話していても、
不動産は話題になったとしても、
今日日、株式を話題にする人など誰もいません。
金融危機の影響で大損し、
「株価は下がることもある」という教訓を身を以って学び、
「羹に懲りて膾を吹く」状態になっているのでしょう。

そして、金融危機の間も堅調に推移し、
唯一、右肩上がりに上がり続けると信じられてきた不動産も、
4月の中国政府による融資規制で
いとも簡単に価格が下落に転じ、
「何しろ早くマンションを買わなくては...」
という熱狂はマーケットから消え失せました。

株式もダメ、不動産もダメ、で行き場をなくした過剰流動性は、
その後、ニンニクや海外の不動産などに流れましたが、
今のところ全国を巻き込むような
大きなムーブメントにはなっていません。
過剰流動性は国民の手元に現金で保有されている、
というのが現状なのでしょう。

ただ、手元に現金で置いていても、
その価値は目減りするばかりです。
現在、中国の1年もの定期預金の
基準金利は2.25%ですが、
CPIの伸び率がこれを上回る、
いわゆる「実質マイナス金利」状態は、
もう既に6ヶ月も続いています。
こんなことなら、貯金などせずに、
物価が上がる前に、
気前良く使ってしまった方が得だ、
と判断する人が増えても不思議ではありません。

一方で、中国の人材斡旋会社・
智聯招聘報酬データ研究センターが、
全国6,000社の企業を対象に実施した調査によれば、
今年の賃金上昇率は10%以上になるであろう、とのことです。
また、最近の労働争議の頻発の影響もあり、
北京市の最低賃金は今年7月、
従来の800元(1万400円)から
960元(1万2,480円)と20%も上昇しました。
これだけ賃金が上がれば、
3.3%の物価上昇はそれほど苦ではありません。

株式、不動産、定期預金など
投資・貯蓄系が総崩れとなるなか、
労働者の賃金上昇率はCPI上昇率をはるかに上回り、
多くの国民がコツコツとまじめに働いて
豊かになる感覚を得ながら消費を増やし、
中国経済は輸出や投資主導から
消費主導の経済成長に移行しようとしています。

こんな中国政府が理想とするような
非常にカンファタブルな経済状況が続く限り、
中国政府が無理矢理インフレを抑えるようなことは
起きないのではないか、と私は思います。


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2010年8月30日(月)

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