第1244回
最低賃金引き上げによる経済構造改革

中国政府が人民元のレートをそれほど元高に誘導しない一方、
最近中国では、全国的に労働コストが上昇しています。

きっかけは、富士康の連続自殺事件や、
ホンダ系列部品工場のストなどでしたが、
「第1230回 中国版国民所得倍増計画」でもお話しした通り、
今では政府が主導的に最低賃金の引き上げを行い、
海南省の37%アップを筆頭に、
既にほとんどの省・直轄市・自治区で
引き上げが行われました。

こうした人件費の上昇で最も打撃を受けるのが、
輸出用の低付加価値の製品を作る工場です。

米国政府は「中国からの低価格品によって、
米国国内の雇用が奪われている」という
議会の声に突き上げられて、
中国に人民元の切り上げを執拗に要求しているわけですが、
今後、中国の労働コストが上昇し、
中国製品の競争力がなくなっていけば、
米国向けの輸出量は減少し、
そうした声も次第に弱くなっていくのでしょう。

米国にとっては、どうしても中国に
人民元を切り上げさせたいわけではなくて、
他の理由でも米国への輸出量が減れば、
それはそれでよいはずです。

今まで、中国政府は人民元のレートを
徐々に元高にコントロールすることによって、
国内の産業を低付加価値から高付加価値へ、
輸出から国内向けへ、製造業からサービス業へと、
転換することを促してきました。
しかし、このやり方では内需が育ちませんので、
内需が育つ前に経済成長の主力エンジンの1つである
輸出産業が潰れてしまうリスクがあります。

このため、今回、中国政府は作戦を変更し、
人民元のレートはインフレが
どうしようもなくなるまではそのまま据え置き、
まずは最低賃金を強制的に上げることによって
輸出競争力を削ぐのと同時に内需を盛り上げ、
輸出産業が自分の意思で国内向けに
シフトすることを促すことにしたように思います。

イソップ寓話に「北風と太陽」というお話がありますが、
中国政府は自国の輸出産業に対し、
人民元高によって力ずくでコートを吹き飛ばす北風作戦から、
内需というエサで自らコートを脱がせる太陽作戦に
路線を変更したのではないか、と私は思います。


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2010年9月29日(水)

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