第1393回
中国で始まった「静かなる抗議」

中国には2つの民主主義がある、
と私は認識していました。

1つは5億人の網民(わんみん、ネット市民)による
「ネット民主主義」
これは役人の無茶苦茶な行政を、
知らぬ同士の網民たちが協力して暴いて
ネット上で大騒ぎを始め、
無視できなくなった中国政府に
政策の変更を促す、というものです。

もう1つは8億人の非網民による「暴動民主主義」
これは役人の横暴や理不尽な扱いに対して、
人民政府や警察を襲う数万人規模の大暴動を起こし、
中国政府に暴動の原因の調査と政策の変更を促す、
というものです。

この2つの民主主義は、
「ネット上」と「リアルな世界」という違いはあるものの、
「中国政府が無視できない大規模な人数で大騒ぎを始め、
注意を喚起して政策の変更を促す」という点では同じです。
しかし最近、中国政府に政策の変更を促す方法として、
大騒ぎをしない「静かなる抗議民主主義」とも言うべき
第3の道を選ぶ民衆が現れ始めました。

先月、遼寧省大連市で、
郊外にある化学工場の撤去を求め、
1万2,000人以上の市民が市政府庁舎前で
「静かなる抗議」を展開、
市指導部がその日のうちに工場の即時操業停止と
移転を確約する、という事件が起きました。

問題となったのは、同市内で
ポリエステル繊維などの原料となる
発がん性物質「パラキシレン」を生産する
大連福佳大化石油化工の工場。
先月の台風の影響で同工場近くの防波堤が決壊、
市民の間で同工場からの有害物質流出への懸念が高まり、
ネット上でデモの呼びかけが拡大しました。

デモは当初、
若者らがペットボトルを投げるなどしたため
治安当局との衝突が起こりましたが、
現場で臨時のリーダーが
冷静かつ抑制した対応を呼びかけて座り込みを促し、
一方、市側に対しては指導者との対話を要求。
これに対し、市側は大連市のトップ・
唐軍党委書記が対話に応じ、
その場で工場移転の確約をした、とのことです。

中国共産党にとっては、大騒ぎの暴動よりも、
冷静な民衆に対話を求められる「静かなる抗議」の方が
ずっと怖いのではないかと思います。
なぜなら、「ネット民主主義」や「暴動民主主義」に対しては、
情報統制や力ずくの鎮圧をする理由付けがしやすいですが、
「静かなる抗議」に対しては真摯に対話に応じるしか道はなく、
もし、冷静に対話を求めている民衆を強制排除などすれば、
全国民を敵に回すことにもなりかねないからです。

一党独裁国家・中国における「静かなる抗議民主主義」は、
今後、より成熟したみなし民主主義を実現する方法として、
中国全土に広がっていくのではないかと思います。


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2011年9月9日(金)

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