第1407回
宝くじ高額当選者の苦悩

先日、中国の宝くじ史上最高額となる
5億6,500万元(68億円)を当てた男性が、
浙江省杭州市の引換所に現れ賞金を手にしました。

この宝くじは
「双色球(しゅぁんさーちょう)」と呼ばれるもので、
表面に数字が記された赤青2色のボールを
組み合わせて抽選するものです。
男性は今回、200元(2,400円)分を買って
5億6,500万元を当てましたので、
投資利回りは280万倍という超高倍率となりました。

この男性、当選したくじを持って
自ら引換所に現れたのですが、
その顔にはアメリカの人気映画
「カンフー・パンダ」の主人公・ポーのマスクが
付けられていました。
これは身元が分かってしまうと
今までほとんど合ったこともない親戚や友人など
自称「自己人(つーちーれん、身内)」が次々と現れて、
カネの無心をしてくるからだと思われます。

しかし、この男性、
当選金を独り占めしようとする強欲な人ではありません。
なぜなら、同氏は出身地である
浙江省紹興市新昌県の福祉事業に、
これまた宝くじ当選者としては史上最高額となる
2,000万元(2億4,000万円)の寄付を
その場で決めているからです。

では、彼はなぜ「カンフー・パンダ」の
マスクを付けなければならないのか?
それは、この男性が
高額の宝くじを当てたことによって、
人間関係が崩れたり、
今までの平穏な生活が乱れたりすることを
恐れているからなのではないかと思います。

これには前例があります。

2009年、浙江省上虞県で
建築作業員をしていた男性が買った
10元(120円)の宝くじが、
500万元(6,000万円)の当選となりました。

喜んだ男性は早速、村の人たちを呼んで
豪華な食事をふるまったり、
各人に数百元(数千円)ずつの
紅包(ほんばお、ご祝儀)を渡したりして、
1日で20万元(240万円)を使いました。

しかし、このニュースが広まるにつれて、
ほとんど交流がなかった親戚や、
長い期間会っていなかった友人、
ひどいときには全く知らない人たちが
「カネを貸してくれ」とひっきりなしに
家に押しかけて来るようになりました。
そして、その男性はそうした状況に精神的に疲れてしまい、
当選の1週間後には家族ともども
夜逃げを余儀なくされたのだそうです。

今回の当選者がこの前例を
知っていたかどうかはわかりませんが、
「カンフー・パンダ」のマスクを付けて行ったのは、
賢い対応であったと思います。
しかし、一方で人間的には、
宝くじの当選を喜んで、
村の人たちに大盤振る舞いをした男性の方が、
良い人であるようにも思います。

せっかく大金を手にしたのに、
それが原因で生まれる新たな苦悩。

今後、中国の人たちの
おカネとの付き合い方がもっと成熟して、
宝くじ高額当選者を始めとする
合法的にお金持ちになった人たちが、
マスクなどを付けずに
堂々と生きていける世の中に
なってくれればよいな、と思います。





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2011年10月12日(水)

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