第1418回
夜逃げ老板の失敗に学ぶ新しい中国ビジネス

中国の中小企業の集積地・浙江省温州市で
老板(らおばん、オーナー社長)の
大量夜逃げが発生しています。

温州市では今年4月ぐらいから
100人近い中小企業の老板が
資金繰りに行き詰って夜逃げをしました。
夜逃げした老板の中には、
老舗メガネメーカー・信泰集団の胡福林会長など、
比較的歴史の長い中堅企業の老板も
含まれています。

信泰集団は1993年設立で、従業員は3,000人。
カルバンクライン、ナイキ、
フェンディなどブランドメガネの
OEM(相手先ブランドによる生産)を手掛けるほか、
上海市内には直営店約30店を展開、
2008年以降は太陽光発電にも進出して
新規投資を重ねていました。

しかし、中国政府の金融引き締め政策による資金不足、
輸出市場である欧米経済の混乱、人民元高、
原材料コストの上昇、人件費の上昇などにより経営は悪化、
同集団の負債総額は20億元(240億円)にまで達し、
内、60%が民間の高利貸(がおりーだい、高利貸し)からの
融資と見られています。

胡会長は同社幹部に対し、
「投資を拡大しすぎた。既に資金はショートしており、
会社も倒産するだろう」と言い残して夜逃げしていましたが、
その後、同氏が副会長を務める
温州市中小企業発展促進会の周徳文会長の呼び掛けに応じ、
逃亡先の米国から帰国して、同集団の破産手続きに
正面から取り組む決心をしたようです。

一旦は現実から逃避しましたが、
さすがは一代で3,000人の企業を育て上げた人物です。
老板たるもの、会社がどんな状態になったとしても、
夜逃げなど言語道断、債権者からどんなに罵倒されようとも、
真正面から自身の責任を全うすべきだと思います。

高度経済成長を続けている中国ですが、
景気が良いのは中国政府の
金融危機対策の恩恵を受けた大規模国有企業であり、
一部の民間中小企業の経営環境は極度に悪化しています。

夜逃げした信泰集団の胡会長の失敗の原因は、
1.銀行からの融資に頼って新規投資を拡大させたこと
2.輸出に依存していたこと
3.原材料コスト、人件費の比率が高い製造業だったこと

などが挙げられます。

「世界の工場」だった頃の中国ならば、
これらは全て正しい経営判断でした。
しかし、中国は現在、中国政府の方針の下、
「世界の工場」から「世界の市場」に
脱皮しようとしています。
中国政府の方針や時代の流れが変われば、
以前は正しかったことも正しくなくなり、
その変化に追いついて自ら変わっていかなければ、
事業の継続は不可能です。

夜逃げ老板の失敗に学んで、今の時代に合った
新しい中国ビジネスのあるべき姿を挙げるとすれば、
1.銀行からの融資に頼らず身の丈の経営を心がけること
2.国内市場をターゲットとすること
3.原材料コスト、人件費の比率が低いサービス業を営むこと

となるのではないでしょうか。


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2011年11月7日(月)

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