第1421回
道で倒れている人を助けますか?

先月、広東省仏山市の路上で、
2歳の女児がワゴン車にひかれて倒れました。
しかし、通りかかった18人の通行人が素通り、
そしてトラックに再びひき逃げされた後、
ようやく19人目のゴミ拾いをしていた
58歳の女性に助けられましたが、
女児は意識不明の状態で病院に運び込まれ、
その後死亡してしまいました。

この事件が中国全土で大きな反響を引き起こしたのは、
7分間の出来事の一部始終が全て、
現場の防犯カメラにとらえられていたためです。

中国メディアはテレビでこの映像を繰り返し流し
「冷漠社会(るんもーしゃーほい、薄情社会)」に
警鐘を鳴らしました。
そして、広東省当局は
「見死不救(じぇんすぶじょう、
死にそうな人を見ても救わない)」という行為について
懲罰が可能かどうか検討を始め、
新浪微博(うぇいぼー、ミニブログ)では
「請停止冷漠(ちんてぃんじるんもー、
薄情な行為はやめましょう)」と名付けた
キャンペーンを始め、
400万人以上のアクセスを集めました。

メディアやネットの論調は
「中国は金銭至上主義に陥り、道徳が崩壊している」
という至極真っ当なものですが、
私個人的には中国の人たちの道徳が
それほど崩壊しているとは思いません。
なぜなら、北京の街では今でも、
バスや地下鉄でお年寄りに自発的に席を譲る人は
日本よりずっと多いからです。

では、なぜ倒れている人を見殺しにするのか?
それは、中国で道に倒れている人を助ける行為には
大きなリスクが伴うからです。

中国では最近、
道で倒れていた人を親切心で助けたところ、
後から「お前のせいで転んでケガをした」と
本人や家族から難癖を付けられ、
治療費を請求されるというトラブルが相次ぎました。
このため、今回の女児の事件以前にも、
「助けると後が怖い」という理由で、
倒れた高齢者の周りに多くの人が集まったにも関わらず
誰も助けず、急病だった高齢者が死亡してしまう、
というような事件が多発して社会問題となっていました。

今回の事件で素通りした
18人を擁護するつもりはありませんが、
彼らもこうしたニュースを聞いており、
とっさに「助けると後が怖い」という
判断をしてしまった可能性は大いにあります。
席を譲るのと、道で倒れている人を助けるのとでは、
同じ道徳的な行為でも伴うリスクが全く違うのです。

今回の事件の後、新浪微博が
「あなたが現場にいたらどうしましたか?」
というアンケートを取ったところ、
ほとんどの人が「助ける」と回答したのですが、
その助け方は
「救急車を呼ぶために通報する」が79%と圧倒的に多く、
「女児を抱きかかえて助ける」の14%を大きく上回りました。

「道徳的には道で倒れている人は
助けるべきだと思うが、助けると後が怖い」。

そんな心の中の矛盾を解決する最も良い方法は
「倒れている人には触れずに、救急車を呼んであげる」
ということなのかもしれません。
倒れている人を助けるのにも、
常にリスクを考えなければならないなんて、
中国も世知辛い世の中になったものです。


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2011年11月14日(月)

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