第1441回
幸せのハードル

今年もあと残りわずか。

私が北京で起業した10年前、2001年のこの時期は、
私は人生最悪の危機に直面していました。

3カ月前に意気揚々と中国で起業したものの、
全く仕事が取れず、当然収入の見込みもなく、
一方で資本金はものすごい勢いで減っていき、
出口の見えない真っ暗なトンネルの中を歩いているようでした。

生活コストセーブのため、
それまで住んでいた外国人用アパートメントを出て、
普通のマンションに移り住んだのも、
更に気分を沈ませる原因となりました。
家では日本のテレビが映らないため、
子供たちにせがまれて、日本のテレビが映る
ホテルの部屋を借りて紅白歌合戦を見たり、
すぐにお湯が出なくなるのに、
不動産管理会社は何日も直しに来てくれず、
仕方なく冷水のシャワーを浴びたり、
と散々な目に遭いました。

しかし、この体験のおかげで
私の幸せのハードルは一気に下がり、
今では自宅のテレビで紅白歌合戦を見たり、
温水のシャワーを浴びたりするだけで、
とても幸せな気分に浸れるようになりました。
普段、全く意識していなかった普通の生活が、
実はとても幸せなことであったと気付くことができたのです。

今年、日本は東日本大震災という大きな災害に見舞われました。

被災者の方々はもちろん、
直接大震災の影響を受けなかった他の多くの日本人も、
今年はなにげない普段の生活が、
実はとても幸せなことであったと
改めて認識するようになりました。

微分的に考えると右肩下がりの日本社会は
閉塞感が漂い絶望的な感じがしますが、
積分的に考えれば日本は諸外国と比べて
まだまだ突出して豊かな国です。
日本人は今回の大震災によって、
幸せの感じ方を微分から積分に
スイッチすることができたのではないでしょうか。

微分的な幸せというのは、
積分的な幸せより感じやすいようです。
今の中国はまさに、
右肩上がりの希望に満ちた微分的幸せを享受しており、
積分的にはまだまだ日本人の1/10の豊かさでしかないのに、
中国人の表情が10倍豊かな日本人よりもずっと明るいのは、
そういったところにも理由がありそうです。

幸せのハードルを下げて、今ある積分的な幸せを見直す。

これが成熟社会となった日本でより良い人生を送るための、
1つの処方箋なのかもしれません。


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2011年12月30日(金)

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