第1487回
歓迎してない歓迎光臨

歓迎光臨(ほぁんいんぐぁんりん)!

これは中国語で「いらっしゃいませ」という意味なのですが、
最近、北京の街ではようやく大手チェーンを始めとして
多くのレストランやショップで、
この「歓迎光臨!」を聞くことができるようになりました。

以前の中国では、
お客がお店に入ってきても「歓迎光臨」と言うどころか、
ほとんどの場合、全く無視。
ひどいときには、私がカウンターで待っているのに、
同僚とのおしゃべりを続け、
おしゃべりが一段落ついたところで、
のろのろとレジ打ちを始める、などということもありました。

しかし、物資が足りなかった昔の中国ならまだしも、
モノがあふれかえり、同業他社との
激しい競争に勝ち抜かなければならない現在の状況下で、
国営商店のような
「気が向いたら売ってやる」という態度を続けていれば、
お店はすぐにつぶれてしまいます。

そこで大手チェーンを始めとするレストランやショップは、
詳細な接客マニュアルを作り、お客さんがお店に入ってきたら
「歓迎光臨!」と元気よく言うことなどを、
規則として店員に義務付けたのでした。

それで最近、多くのお店でこの「歓迎光臨!」を
聞くことができるようになったのですが、
言っている店員をよく見ると、だいたい目が死んでいます。
彼らはマニュアルに書いてあるから仕方なく
「歓迎光臨!」と元気よく言っていますが、
心の中では私の来店など全く「歓迎」していないのです。

しかし、よく観察してみると、
彼らが同僚とおしゃべりしているときには、
いきいきとした目で楽しそうに話をしていますし、
常連とおぼしきお客が来たときの態度は、
私に対する態度とは明らかに違います。

これはやはり身内である「自己人(つーちーれん)」と
それ以外の「外人(わいれん)」との線引きで
自然と態度が変わってしまっているとしか思えません。

同僚は毎日一緒に仕事をするので
良い人間関係を保つ必要がありますし、
常連さんもよく会いますので自己人の末席ぐらいには入ります。
しかし、初めてこの店に来て、
もう二度と来ない可能性が大きい私などは外人中の外人で、
そんな人間を「歓迎」してやる必要など全くないのです。

逆に、時給たったの800円で
一見のお客に心の底からの笑顔で接客する、
日本のファストフードの女子高生アルバイトなどは、
中国の人たちから見ると理解不可能であるようです。
「キミたち、どうしてそんなに素敵な笑顔を
安売りしてしまうんだね」という感じのようです。

ある意味自分の心に正直な中国の店員さんたち。

中国で心のこもった「歓迎光臨!」を聞けるようにするためには、
全てのお客さんを「自己人」だと思ってもらわなければなりません。
「お客さんは全員自分の親だと思いなさい」。
そんな洗脳に近いことをしない限り、
中国で一見さんに対して心のこもったサービスを提供するのは
難しいのではないかと思います。





←前回記事へ

2012年4月13日(金)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ