第1540回
従業員という落とし穴

最後の6つ目の落とし穴は、
従業員という落とし穴です。

これまで説明してきた落とし穴は、
顧客や政府の役人など
会社の外部の人たちに関するものでしたので、
「最初からそういうもんだ」と思っていれば、
事故を未然に防いだり、
ダメージを軽減させることもできるのですが、
従業員はついさっきまで仲間だと思って
心を許してきた人たちですので、
裏切られると無防備であるがために被害が大きくなりますし、
心理的にもかなりつらいものがあります。

当社では以前、あまりにも仕事ができない
中国人の男性社員を解雇したことがあります。

解雇を言い渡したときには
「ああ、そうですか。仕方がないですね」
ということだったのですが、
出勤最終日、午後から彼の姿が見えません。
「どうしたのかな」と思っていたところ、
他の社員が
「総経理、顧客データが全部消されています!」
と報告してきました。
彼は解雇された腹いせに、
当社の顧客データを全部消して逃げたのでした。

顧客データが全て消された後、
彼の自宅や携帯電話に電話をしましたが、
つながるわけもなく、
私は「顧客データ、一から作りなおすしかないか...」
と半ば諦めていました。

しかし、パートナーの劉さんは
「絶対に許さない!」と激怒、
仕事そっちのけで彼の元の勤務先や交友関係を探るなど、
警察ばりの捜査を開始しました。
そして、1週間後に彼の故郷に
入院中の母親がいることをつきとめたのです。

劉さんは早速入院中の母親に電話をして
「お宅の息子がとんでもないことをしてくれた。
このまま逃げていると、
警察に被害届けを出さなくてはいけない」という話をしました。
そして、その翌日、
どこに行っていたかわからなかった彼が突然、当社に出頭し、
泣きながら謝罪。
私と劉さんは「もうこんなことしちゃダメだよ」と諭して
彼を家に帰しました。

従業員は信用するべきです。
逆に信用しなければ仕事になりません。

しかし、会社の内部情報へのアクセス制限や、
会社の実印の管理など、最低限の防備をすると共に、
従業員に会社に牙を剥く気持ちを起こさせないような
断固たる態度が必要なのではないか。
私はこの事件を通じてそんなことを思いました。





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2012年8月17日(金)

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