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30. 正直ものは嫌いですか!?

開業準備当初、メニューを作りながら
"どのように価格を設定するか"については特に頭を悩ませました。
価格設定こそが経営者にとって最も大切な仕事だからです。

「とにかく、大衆的な価格でより多くの人に焼肉を楽しんで欲しい。」
という強い思いから、スタッフと共に慎重に"良心的な価格"を設定したつもりでした。

良心的な価格とは、原価から計算して可能な限り利益率を低く抑えた価格のことです。
そうすることで消費者はより低い価格で良質な食材を手にすることが出来る。
スタッフには「ちょっと人が良すぎやしませんか社長。」と言われましたが、
それでも押し切りました。

オープン直後、「内装が綺麗な割りに、あまり高くないね。」
という声を多く耳にしてほっとしていました。
ところが・・・しばらく時間が経つうちに、
お客さんからの割引プレッシャーが重くのしかかってきたのです。

いろいろなお客さんがいるものです。
・ はじめて来店したばかりなのに、いきなりVIPカードはないのか?という顧客
・ まったく知らない人なのに、友人の紹介だから5割引にしろと無茶をいう顧客
・ 老板(らおぱん=社長)の知り合いだから毎回必ず割引しろという顧客等々
ことごとく割引を要求され、
一時私は割引という言葉を聞くと神経が過剰に反応する時期もあったくらいです。

割引を要求されるたびに、
「私どもの店は割引をしない方針です。
その代わり中国で一番適正で良心的な価格設定をしているつもりです。
どうぞご理解ください。」と訴えました。
しかし、「そんなことはどうでもいいからとにかく少し安くしてくれ。」
というなんとも不合理な要求の連続でした。

この要求には閉口すると同時に、
まわりの親しい友人を含め数十人に聞いてまわりました。
「もともと50円のものがあって、僕らは友人だしあなたのことを大切に思っているから
正直に50円で売ってあげます、というのと、
元々50円のものを100円と騙され
最終的に50円で買うほうが嬉しいか、どっちですか?」と。

答えは、「50円を100円といわれて50円に割引してもらう方が嬉しい。」

予想外でした・・・。
私の感覚では、値引き交渉や、見せ掛けの割引で騙されるくらいなら、
最初から正直な価格で安心して食べることができる方がうんと嬉しいのですが、
こちらの人は倍の値段を言われて5割引してもらったほうが嬉しいとは・・・。
良いものをより安く多くの人にという考えを持ちやってきたのですが、
私の信じる道がどうであれ、これを聞いた後は大いに考え、
そして行動を修正することにしました。

割引きの考え方について中国の人の心理をまとめるとこんな感じです。
1) 割引をしてもらうと、その時の幸せ度の高まりが
  (日本人が一般に考えるより)とても大きい。
  逆にいうと、割引がなかった際の失望感と不快感も想像以上に大きい。
2) 割引をしてもらうということは、その人のステータスを示すことであり、
  「割引額=面子の大きさ」になる

結論的には、中国での価格設定は、原価と適正利益以外に、
"面子"をあらかじめ載せておく必要があるということでした。
この価格設定が甘いと後々ずいぶんと苦労する羽目になるし、
いったん決めた価格を変えるのはずいぶんと勇気がいります。

最初の価格設定でつまずいた私は、
「こりゃだめだ。変更しなけりゃ商売にならんわ。」
がっくりと頭を垂れたのでした。


2007年10月15日(月) <<前へ  次へ>>