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51. 不正から学んだ人材育成術(3/3)

不正事件の発覚は
社内の大きなモチベーションダウンにつながります。
わが社でもその後3〜6ヶ月程度、
社内がギクシャクし社員と私の間に溝ができたのを感じました。
彼らが私を怖がっているのを露骨に感じたし、
私に疑われるのを極度に恐れて、
何かものを買うときは必ず私の同席を求めるといった始末でした。

この事件は私にとっていまだに心の傷のひとつです。
しかし振り返ってその中身を反省してみると、
いろいろな学びがあることに気づきます。

【不正からの学び】
・権限のあるところに不正あり
・リベートはどこにでも存在する
・におい・直感を大切にする
→必ず不正の周りには小さなシグナルがある
・不正をする人間に限って「私は不正を絶対しません。」と言う
・徹底的に予防する
→ITを活用する
  ※わが社では、注文にPDAを使った
  無線オーダーシステムを導入しています。
  これは、店員と料理側がつるんで
  知り合いに料理の量を増やしたり、
  勝手にサービス品を送るといった
  小さな不正防止に効果があります
  ※また、150人を超える毎日の出退勤管理には、
  指紋認証システムを使っています。
  こうすることで、友達に
  「悪い、ちょっとカード押しといて。」
  などと言った小さな不正が防げるのです
・厳格な社内制度が必要。
→会社の規則・制度は不正を徹底的に疑いながら作成する。
(制度の実行時には完全に社員を信頼できるように)
・不正が発生したら冷徹に、徹底的に処理をする
→それを誰に知らせるのか細心の注意をする

総じて、経営者には従業員を守る義務があると考えています。
システムの不完全により従業員に不正を起こさせるのは、
経営者の怠慢であるのです。
したがって、システムや制度作りには
神経を使って使いすぎることはないのです。

最後に。

かような経験を経て、
私自身が人間不信に陥ったりとしたわけですが、
まず、このような不正事件をもって単に
「中国人はだめな民族だ。」
という世に溢れる短絡的なチャイナバッシングに陥ってはいけない
ということは声を大にして言いたい。

こういうことをする人間は基本的には非常に少ないのです。
ただ、日本より若干その割合が多いのと、
人口が多いので目立つだけです。
(それゆえ、不正の絶対数は多いですが)

不正に対する経営者の考え方でわたしは、
3つの大切な考え方があると思います。

1)罪を憎んで人を憎まず
 いわゆる精神論ではありますが、
 その人間を恨むのではなく、
 不正の発生から従業員を守れなかった自分をまず反省すべき
2)中国の歴史が不正環境を生み出したことを忘れない
 少し前、こちらのご老人とおしゃべりをしていたときに、
  「50年前の中国はね、みんな比較的おおらかで、
  5000年(中国人は4000年の歴史ではなく5000年と言います)
  の歴史に育まれた豊かな文化があり、
  人々は今よりももっと礼節をわきまえていたものですよ。
  それが文化大革命の時から、
  人々は他人を出し抜いて自分だけ
  いい目にあうことばかりを考えるようになってしまった。」
 文化大革命という
 多くの日本人にとって理解しがたい歴史的な出来事が
 近代中国人のメンタリティーに
 大きな影響をあたえたことは否定しがたいと思います。
 だから、現代中国の、
 “他人を出し抜いてでも人より早く金持ちになる、
 不正をしてでもお金持ちになる”
 といった考え方も、
 それを肯定することはできないものの、
 こういった風潮の原因の全てを各個人に求めてはならない
3)疑うぐらいならその人間は使わない、使うなら疑わない
 私が、落胆をしていたある日、
 スタッフの一人が、中国にはこういう表現があると私に紹介しました。
「疑人不用、用人不疑」
(信じられないなら使わない。使うなら疑わない。)

 この言葉を聴いたとき、「あ〜、そうだな。そのとおりだな。」
 結局今回の事件を引き起こしたのは、
 完全に信じられないとうすうす感じていながら
 それを長きにわたって放置した自分に責任があるなと悟ったのです。

こうしたことを理解するに至って、
不正を起こした本人に対する恨みどころか、
不正問題の背景にある歴史性、人間性、
そして、経営者の責務について改めて理解を深めるのでした。


2008年3月10日(月) <<前へ  次へ>>