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7. 敵わない人

私のイタリア修行2軒目のレストランは、
リグーリア州ジェノヴァからモンテカルロを通り
ニースへ抜ける鉄道で途中のアルベンガ駅で降り、
車で山間を抜けたガルレンダという町にあるホテル
「ラ・メリディアーナ」(日時計という意味)。
以前日本でイタリア料理や料理人について
色々と教えを頂いた先輩が
このホテルのレストランでシェフをされていると知っていたので
報告がてら電話をかけた際
その先輩に「8月の1ヶ月間うちで仕事しないか?」
と私に声を掛けて頂き、お世話になることになりました。

先輩とは長いお付き合いで
私が20歳より本格的に始めたイタリア料理店での出会いが最初で、
それ以来何かと相談に乗ってもらったりと
お世話になりっぱなしです。
私は出来が悪かったのでいつも先輩に殴られ蹴られ、
ご迷惑を掛けていました。
その為恐い先輩として当時の私は
いつかこの先輩を殴ってやる、などと大それた事を考えたりもし
今思えば自分の青臭さが懐かしかったりもします。
その当時の私は決められたルールも守れず、
料理人としても半人前以下のくせに、
楽することばかり考え
仕事に対しての姿勢などあったものではありませんでした。

そんな20歳のある日いつもの様に叱られ
私のテンションが最低値に達し、怒りが最高値を記録した私は
「あの先輩ともう一緒に仕事は出来ない!」
と心に誓い次何か言われたら絶対辞めてやると決めました。
そしてお昼休憩終了後仕事に戻り、
今か今かと待っていたのですが一向に先輩は何も言わず、
叱るどころか
「デザート作るから教えてやる」とまで言われ
優しい口調で一から指導してくれたのです。
私はいつの間にかテンションが戻り
怒りなど忘れデザートに夢中になっていました。
デザートを作り終えると、
その分量から作るプロセス、タイミングなど
事細かに教えてくださり、
また一つデザート作りの奥深さを理解したことは
言うまでもありません。

絵に描いたような飴と鞭。
見事に使い分けられていて完敗です。
立派な料理人になりたいという自分の目標を忘れ、
居心地の悪さを愚痴り、
前を向かずよそ見ばかりしていた自分の愚かさを知り、
我を見つめなおす良いきっかけになりました。
先輩曰く、
「しっかりとした仕事をこなせ、
しっかりと遊べる料理人になりなさい」。
意味を簡単に解釈していましたが、
実はすごく奥深いのだと感じたのでした。

そして当時の私は
先輩の手のひらの上で転がされていたのかもしれません。


2007年5月30日 <<前へ  次へ>>