拘束された時間ほど使える
乗り物の中は、私にとって、大事な仕事場である。もっとも乗り物にもいろいろあって、片岡鉄兵という戦前の小説家は、女のハラの上に乗ったままで原稿を書いたという逸話が残っている。
こちらはさすがにそれほどの剛の者ではないから、とてもそんな芸当はできないが、飛行機、新幹線、自動車、船、どこでも乗り物の上では仕事をする。
いつだったか、台湾から帰ってきて、翌日、秋田県の大館というところで講演をたのまれていたので、午前八時五十分頃に羽田に車を乗りつけた。
ところがカウンターに辿りついた途端に、福岡からとんできた日航機が墜落して滑走路が閉鎖されてしまった。
朝は東京から他所へとび立つ人たちばかりだから、飛行機がとばないと、はけ口がなくなって、待合室の中はたちまち人で溢れてしまう。予定の狂ってしまった人々はブウスカ文句を言っているが、私はどこでも仕事のできる性だから、空いた椅子を一つ見つけると、そこヘドッカと腰をおろして、カバンの中から原稿用紙をとり出し、新聞の原稿を四週間分書いてしまった。
とうとうその日は飛行機がとばないので、講演はキャンセルしてしまったが、私は行きも帰りも自動車の中で仕事をした。大館まで行けなかっただけのことで、拘束された時間中、私は仕事を続けることができたのである。
昨今の私のスケジュールは、新聞、週刊誌、月刊誌などの連載が十五本、全国の講演が月に十五回から二十回、そのほかに、座談会、テレビ・ラジオの出演、財務の相談、それに会社が二十社ほどあって、東京に滞在する約三週間の間にこれらのすべてをこなさなければならない。新聞の連載を一本か二本書くだけでも大へんなのに、時間の割りふりはどうなさるのですか、ときかれることがよくある。
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