自腹ゆえに本音、愛するがゆえに辛口。
友里征耶さんの美味求真

第147回
料理店の盛衰は営業方針次第? その1
迷走してしまった、「つくし」

私は、料理人が原価率でけちけちせず良い食材を使い、
厨房につめて手を抜かず本気で造ったら、
皆一般客には「おいしい」と感じられる料理を
提供できると考えています。

では、なぜ、実際においしい店、おいしくない店がわかれるのか。
それは、儲けにはしり食材の質を落とす、
業界人との付き合いで忙しく厨房へ入らない、
楽をしたくて手抜きする、など
客をおざなりにする料理人が多く存在するからです。

このシリーズでは、これらの要因、
つまり料理店の営業方針にスポットをあてて見たいと思います。
第一回目は西麻布の「つくし」です。

吉兆出身の主人が開いた西麻布の和食店「つくし」。
以前は評価本の常連でもあり、有名店でもあったのです。
それほど特徴があるとは思えない料理でしたが、
最後の土鍋ご飯がウリでした。

1階のディフュージョン版である「たぬき」は、更に人気で
昼夜ともに満席が続いていました。
高級外車を店前にとめて、
行列に並んでいる客も珍しくなかったのです。
いつのまにか、「つくし」は
料理人が代替わりしたのも影響したのでしょうか、
居酒屋の雰囲気の割に飯と汁と1品で2千円近くかかる
「たぬき」へ入る客もここ数年減り続けていました。
不景気が続き、値ごろ感のある和食が増え続けたからか、
急激に人気は衰えてしまったのです。

貧すれば鈍する、というわけか、
昨年「つくし」へ訪れた時、
和食屋としてあってはならない場面に遭遇してしまいました。
土曜の夜の開店直後、たしか18時頃だったと記憶していますが、
着席後ビールの次に「造り」を注文しようとしたら
すべて品切れと通告されたのです。
この日、訪れる客を予想していなかったのか、
それとも和食屋へ入る客が
「造り」を頼まないと思っていたのでしょうか。
そして、連日満席にならない「たぬき」を心配していたら、
今年の春先にリニューアルを敢行してきたのです。

1階は惣菜などのデリ専門で「たぬきの台所」という店名。
2階はダイニング「たぬきの台所」となり、
昼は階下のデリに近いものを器で出すだけの
簡易な店になったのです。
開店早々訪れて、私はこの店の寿命が短いことを予想しました。
夜には「つくし」並みの料理を出すとの事でしたが、
信じられません。2階にあった厨房が見当たらないからです。

その存在を忘れて数ヶ月経ったでしょうか、
前を通って再確認したら、
2階は再び「つくし」に逆戻りしていたのです。
デリをそのまま店内で出すという
手抜きに対するあまりの不人気に、
再度リニューアルしてきたようです。
メニューも前の形態に戻ったようですが、
客足も戻ったのでしょうか。
1階も、ランチ時は客が溢れていますが、
夜はほとんど入っておりません。
奥になにやらカウンターみたいなものを備えたようです。
まさに迷走状態。
ネットの検索でも、「つくし」でヒットしにくくなっています。
時代の流れに取り残され、勝負に出た営業転換も
必ずしもうまくいっていないと推測します。

やはり、和食の基本は価格に見合う食材と出汁。
そして、店側のやる気でしょう。
「造り」を開店時から切らしているような営業では心配です。


←前回記事へ 2003年11月14日(金) 次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ