自腹ゆえに本音、愛するがゆえに辛口。
友里征耶さんの美味求真

第163回
マツタケの時期は目が飛び出る、「京味」

お任せコース1種だけ、
高価格、名物総料理長、客層が独特、と
ちょっと入店するには勇気と財力が必要な新橋の京割烹「京味」。
10席ほどのカウンターと
2階が座敷の小さな店構えを見るだけでは、
一人4万円近くかかる京料理店とは到底思えません。

総料理長である西健一氏は今も健在です。
常連客との会話の他、一見客への配膳、
カウンターを飛び出しての客の椅子の引きまでもやってしまう
パフォーマンスはやりすぎでしょうか。
次郎の主人とは対極的な接客で、
しかし同じくカリスマ性を保っているのは面白い。
決して広くないカウンター内のつけ場ですが、人口密度は高い。
追廻を含めて10人近くのスタッフ、
メニューなしに勝手にスタートするコース、
料理は10種以上の皿数、と聞いただけでも
高い請求額が予想されます。

夏にでる、鱧、早松(さまつ:早く出回るマツタケ)
などの食材を使った料理を気に入って、
10月に丹波のマツタケを食べに行くには
相当な覚悟が必要だと悟りました。
知人との付き合いで不用意に訪れた私は、
その請求額に驚きました。
店側は仕入れ業者を信用するしかないと言われている、
丹波産のマツタケが主役。
西氏の話では、この特徴は
軸が柔らかくて下まで食べられるとのことですが、
私にはよくわかりません。
店へは仕入先からダンボール箱詰めで送られてくるようで、
店先に近づいただけで香りがわかるほどの量でした。
10皿以上の料理のうち、焼マツタケ、鱧・マツタケ鍋、
フライ、マツタケご飯と出されるマツタケは
適度に開いた大振りな物を使用しています。
食べている自分自身でさえ、
ちょっと量が多すぎると感じましたが歯止めが利かず、
焼マツタケを追加でいただいた後の会計が恐かった。
店側が淡々と差し出した額は一人5万円を軽く超えていたのです。
いつもの請求額である
3万5千円前後をイメージしていた私が愚かでした。

上質な丹波産のマツタケは100グラム1万円を超えるとか。
あれだけの量をお腹の中へ入れてしまえば、
自ずとわかる結果だったのですが、
空っぽになった財布を懐に店を出た次第です。

マツタケ以外の料理も食材、出汁、調理法など、
金額を考えなければ満足するものでしたが、
やはり秋のマツタケ、冬のフグは
上物を追及するとCPが格段に悪くなってしまうようです。
一見客にはかなり詳しい事前知識が必要な店です。


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