自腹ゆえに本音、愛するがゆえに辛口。
友里征耶さんの美味求真

第588回
ワインの諸々 その51
シャンパーニュ古酒へのお誘い

ワインスクールやテキストでは一般に、
「シャンパーニュはフレッシュな方がおいしい。
新しいうちに直ぐ飲んだほうがいい」
と教えています。
「クリュギスト」といわれる熱狂的なファンをもつ
高級メーカー「クリュッグ」の当主も、
「シャンパーニュは熟成しない」(解釈は末文に)
と言っているとワインショップ経営者から聞きましたし、
私の好きなメーカーである「ボランジェ」には
「RD」(最近デゴルジュマン(澱抜き)したという意味)なる
プレステージ物もあるくらいです。

でも、本当にそうなのでしょうか。
肝心のクリュッグが「コレクション」といって
デゴルジュしてからかなり寝かせた最高峰物を出しています。
同じようなシャンパーニュでは
ドン ペリニヨンで有名なモエ社も
「リゼルヴ ド ラ ベイ」という
バカ高いシャンパーニュを出しています。
どちらも最近リリースされたものでも79年ものくらいと
20年以上経ったものをようやく世間に出してくるわけです。
また、アメリカと違って
クリスティーズなどロンドン系のオークションでは、
1950年代、60年代のシャンパーニュが
かなりの高価格で落札されている現状があります。
つまりシャンパーニュの古酒のニーズは
あるところにはかなりあるということです。
シャンパーニュの古酒に嵌ると、
その収集で身上を潰すとまで言われているくらいです。

私も潰れない範囲でこの古酒を集めていますが、
果たしてお味はどうなのか。
40年代、50年代、60年代とかなり古いシャンパーニュになりますと、
その味はまったく別物。
私には熟成されているとしか思えませんし、
ワイン好き、ワインラヴァーの方はほとんどそうお考えでしょう。
泡(ガス)はほとんど確認できないくらい弱弱しいものですが、
味わいや香りは、
素晴らしい熟成を遂げた
ブルゴーニュのシャルドネを使った白ワインの古酒に
通じるものがあるのです。
大変甘美で素晴らしいもの。
オークションで、
10万円前後で落札される訳がわかるというものです。
前述の「RD」も
デゴルジュからかなりたったものの方が価格は高いようですし、
熟成して美味しく感じる人もいるくらいです。

しかし、これらシャンパーニュの古酒、熟成を語る、判断するには、
普通のスティルワイン(赤、白ワイン)の
古酒の経験を積まなければならないと考えます。
1970年代や80年代のワインを熟成ワインと考えたらいけません。
良い保管状態では100年前のワインでも
充分おいしいものがあります。
自慢に思われ不快感を与えてしまうかもしれませんが、
ある程度、例の「権威付け」をしないと信用されないのが
この手のコラムなのではっきり書きますが、
20世紀はじめに造られたリコルクしていないワインでも、
果実味を感じるワインに当たる事があります。
私の経験では、ボルドーよりブルゴーニュの方が
熟成に絶えられるのではないかと思うくらい
果実味を多く感じるワインに当たりますが、
白ワインでも1935年のルフレーヴという造り手の白ワインは
甘―く官能的でした。

何が言いたいかというと、
料理もワインも経験によって感じる味わい、
印象が変わると言うことです。
初めて「白トリュフ」を出されたら
あの香りで引いてしまう人が多いでしょう。
最初はフォアグラもそうでしょうし、
ジビエなんかも「山鴫」を取り上げるまでもなく
初心者にはきついものです。
つまりは、経験が1万件以上といった極端な数の多さは別にして、
最小限の経験は必要だと言うことです。
シャンパーニュが果たして熟成しないものなのかどうか。
白、赤といったスティルワインの本当の古酒や、
シャンパーニュでも
50年前のあきらかに味わいの変わった
熟成ワインとしか形容できないシャンパーニュを
いくつか経験してから、
「シャンパーニュは熟成がどうのこうの」
と人に発言するべきものと私は考えます。

また、誤解されているのが
シャンパーニュハウス(メーカー)の大小による品質レベル。
最近は小さなメーカーのシャンパーニュ
(ドメーヌ シャンパーニュ)にも
よい品質のものが出てきましたが、
大手より小の方が、品質が上、といった考えは間違い。
普通は正反対と考えます。
品質の安定といった点では大手にかなうはずがありません。
また、小さなメーカーの
品質の悪いブドウだけを大手が買っているわけではありません。
畑には100%、95%とか“%”でのランク付けがありまして、
価格は統一されています。
そして醸造しないブドウ栽培業者もかなりいるわけで、
大手はそういうブドウを買い付けています。
広大な自社畑をもっている大手も多いのです。
ブルゴーニュでも4〜50年前は大手しかなく
いわゆる「ドメーヌ」というものはほとんどありませんでした。
確かに最近のブルゴーニュでは
この「ドメーヌ」ものの人気が高いですが、
ブシャール、ジャド、フェヴレなど
ネゴシアンなど今でもよいワインを造っている大手は存在しています。
シャンパーニュでも同じなんですね。

知識や情報は、一箇所だけではなくいろいろなルートで確認する、
自分の情報源・知識源が必ずしも正しいわけではない、
一つのメーカーが言っていることだけを信用しない、
そして自分も確認しなければならない、
ということは私自身も
昨年の「レトワール閉店問題」で誤報を配信しました経験から
よくわかっております。

また、シャンパーニュの
ドサージュ(コルクを打つとき甘いリキュールを入れる)の
有り無しで熟成の結果が変わるという事もまったくありません。
ドサージュは熟成を妨げるなんてとんでもない、と断言します。
今存在する40年、50年、60年もののシャンパーニュ古酒は皆、
この「ドサージュ」をしている大手のものです。
現存する熟成を感じる大手のシャンパーニュがドサージュしていて、
ドサージュしていないドメーヌシャンパーニュの古酒が
存在していない現実。
ドサージュの有無はまったく熟成の如何には関係ない、
少なくともドサージュ=熟成駄目、といった根拠は
まったくありません。
ドメーヌシャンパーニュこそ最近でてきたもので、
古いものはほとんどないんですから。
熟成を10年、多くても20年といった狭い範囲で考えるならば、
確かに20年前のシャンパーニュなんて、
クリュッグもボランジェもロデレールも
そんなに熟成感が出ているとは思えません。
でもこの20年前のようなスティルや泡ものは、
「熟成」とは言わないのが普通です。
「ちょっと古め」か「新しくはない」くらいのものです。
昔一世を風靡されたインポーター関係者が、
こんなわかりきったことに間違った認識を示されているのが
私には不思議です。

最近のビオワインをはじめ、
新しい技術革新のもとで醸造されたワインもいいでしょう。
それなりにおいしいと思います。
でも、健全に熟成された古酒(20年や30年前のではありません)も
ぜひ機会があったら経験していただきたいと思います。
特に古い健全なシャンパーニュを経験した方なら、
「シャンパーニュは熟成しない」、
「シャンパーニュでは熟成に耐えうるものが少ない」
と言われる人は居ないと確信します。
クリュッグの当主のコメントも、
「デゴルジュマンした時点
(この時点でも何十年も寝かしているのもある)では
熟成はしていない」という意味に解釈していると、
前述のワインショップオーナーはおしゃっていました。


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2005年3月20日(日)

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