自腹ゆえに本音、愛するがゆえに辛口。
友里征耶さんの美味求真

第719回
タイアップ広告に出ながら怠慢、鮨 いのうゑ

コラムのネタ探しに「東京カレンダー」8月号をめくっていたら、
こんな店が紹介されていていいのかと
思わず仰け反ってしまった店が掲載されておりました。
和食界の7人の料理人の店と
サントリーの「プレミアム モルツ」の宣伝をかねた
タイアップ広告の特集です。
「とく山」のほか、6店は比較的新しい店の宣伝でして、
店紹介と共に、その店の料理とプレミアム・モルツが
ツーショットで紹介されている典型的なタイアップ広告、
しかもなんと10ページに亘っての特集ですから
サントリーも力を入れていたようです。

そのなかで、私が仰け反ったのは西麻布の「鮨 いのうゑ」。
ヒラマツの「レゼルヴ」対面の路地をちょっと入った鮨屋でして、
以前はバーだったと記憶しています。
オープン当初、偶然通りがかりその看板を見て、
俄かに鮨を食べたくなった私は、迷わず飛び込みました。
しかし昼時だというのに客はゼロ。嫌な予感が走ったのですが、
そのまま数千円の「お決まり」ではなく
「お好み」を敢行してしまいました。
肝心の握りは極めて凡庸。
タネ質も中レベル行っているかどうか、
勿論酢飯もゆるくて頼りない。箸置きもなければ指拭きもなく、
そして煮キリも塗られません。
雰囲気はいいのですが、
それだけでちょっと食べて飲んで1万円ほど。
街場の寿司で高額鮨屋並の料金を請求する店と感じました。
こんな寿司で激戦の西麻布で勝ち抜いていけるのか。
近所には、「真」、「ゆう田」、「すし匠 まさ」など
若手の鮨屋が頑張っています。
鮨がわからない業界人しか支持しないでしょう「和心」もあります。
帰り際、なぜこんな激戦地に出てきたのか
それとなく聞いたのですが、
主人は「オープンするまでこんなに鮨屋が多いとは知らなかった」
というトボケた返答に笑ってしまいました。
こりゃ駄目だ。マーケティングもなにもやっていないではないか。

それなのに、このタイアップ広告では
いかにも名店の如く紹介されていたのです。
「後世に語り継ぐべき熟練の職人技を
ザ・プレミアムモルツとともに」
とあります。どこにそんな熟練技があっただろうか。
また、この店はオーナーが別にいるらしく、その井上オーナーは
「僕は相当の鮨好き。あちこち食べ歩いたけれど、
ネタとしゃりと空気の絶妙なハーモニーに感動できるのは、彼だけ」
と熱く語っているのです。
おいおい、そんな店だったかと
私はよせばいいのですが確認のため、再度この店に飛び込みました。

その日も昼は我々だけ。せっかくのタイアップ広告ですから、
カウンターに着席後、
迷わず「ザ・プレミアムモルツ」をオーダーしたところ、
耳を疑う言葉が返ってきました。
「まだ酒屋が来ていないので、ありません。生ビールだけです」
おいおい、毎日一日分のモルツしか仕入れていないのかよ、
折角タイアップしてくれたサントリーに失礼ではないか、
と突っ込みたくなるのを押さえて、私は生をオーダーしました。
この仕入れの「怠慢」は弁解の余地がないでしょう。
勿論、寿司自体も前回と同じく極めて凡庸。
しかしお任せに近い形で頼んだからか、
今回は一人当たり1万円を優に超えてしまいました。
どこがネタとしゃりと空気の絶妙なハーモニーなのか。
食後感と支払い金額が完全に乖離している寿司屋です。
井上オーナーはどこの鮨屋をかなり食べ込んできたのか。
少なくとも都心の高級鮨屋へ通ったとは到底思えません。
「次郎」や「さわ田」、「きよ田」
といった最高額鮨とまでいかなくとも、
「しみづ」や「かねさか」、「小笹寿し」、
「兼定」、「青木」、「なかむら」
など同じような価格帯の高額鮨屋に一回でも行っていたならば、
江戸前をはじめ高級鮨を味わっていれば、
この主人の仕入れるタネと造った酢飯で握った寿司で
本当に感動できるかどうか。
実は自分の鮨経験のなさを開示してしまった
バックアップコメントなのです。
いくら贔屓目に見てもかなりの無理があるでしょう。

タイアップで広告費をだしたサントリーにも失礼な
ビール品切れ事件でしたが、
サントリーもタイアップ先の店の料理をしっかり味見して
チェックしておくべきだったのではないか。
オープンしてから近辺鮨屋の多さにびっくりしたという
呑気な寿司屋を選んでしまったことが
そもそものミスだったと考えます。


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2005年7月29日(金)

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