事業家が馬に鞭打ち、銀行がその尻馬に乗った
銀行はいつの時代でも、体制の支持者である
借金経営は、成功してみれば、こんなおいしい経営はないと思いたくなるほど多くの長所をもっている。しかし、それは成功してはじめていえることで、借金したくともなかなか借金ができるものではないし、社会全体が資金の不足に脳んでいる時に、自分たちだけ借金させてもらうためには、それなりのテク二ックも必要である。また借金には担保が必要だから、然るべき資産を持っていなければ、上場企業といえども、お金は貸してもらえない。
最近の日本は、対外貿易の大幅黒字によって空前の金あまり現象を起し、お金の借り手より貸し手のほうが多くなった。「お金を貸すのにも、銀行の支店長は揉み手」と新聞が報じているが、ほんのー年前までは、お金を貸してもらうほうが銀行に日参していた。
銀行の支店長の心証をよくしておかなければ、お金を貸してもらえなかったから、事業会社の幹部は支店長をゴルフに誘ったり、会議をするときは支店長を床柱を背中にした座席に座らせたりした。また大会社の社長の重要な仕事の一つは、お金を貸してくれそうな銀行の本店や保険会社の本部にせっせと通うことであった。
日本国中にその名を知られた大会社なら、銀行や保険会社の社長たちと同格につきあえるから、お金を借りるときも比較的借りやすい。しかし、すでに大きくなった会社だけがお金を欲しがったわけではない。過去四十年をふりかえってみると、企業間の勢力関係は大きく変化しており、新興勢力が大企業になったり、逆に大会社が斜陽化して影がうすくなったりしている。どちらかといえば、新興勢力のほうが食い盛りの青年のようなものだから、資金に対する需要は旺盛である。そういう成長産業に対しても、銀行は資金の供給をしてきたから、過ぎ去ってみれば、日本の産業界は銀行が育てたものであり、「銀行の存在を無視して日本の産業界を語ることはできない」といっても決して間違いではないかもしれない。
しかし日本の銀行家たちは日本の産業界の将来に対して正確な見通しを持っていたか、その資金の提供の方向は問違っていなかったか、そういうことになると、いささか首をひねりたくなる。銀行は顧客のお金を預かって事業家に貸すのが本業だから、どうしても安全第一に物事を考える。貸して大丈夫か、ということになると、これから金持ちになるかもしれない人よりもすでに金持ちで社会的信用のある人に貸すほうが安全である。
今で言えば、トヨ夕や松下になら無条件に、いくらでも貸せるが、わけのわからないコンピュー夕ソフト会社には二の足を踏むだろう。
それと同じように昭和二十年代のトヨ夕は労働争議で今にも潰れそうなボロ会社だったし、京セラとか、ダイエーとか、カシオとかいった会社は、そもそもまだこの世に生れていなかった。そういう創業問もない会社や財務内容に不安のある会社や、海のものとも山のものともわからない会社にお金を貸すよりは、東洋紡、日清紡、鐘紡のような日本の国を代表する紡績会社にお金を貸すほうを銀行は選んだ。
その時代の一流会社に融資をすれば、何の心配もなかったが、二十年前のトヨタや日産にお金を貸して万一こげついたりしたら、担当支店長も、その統括をする融資担当重役も責任を間われるおそれがあった。だから、本当のことを言うと、銀行はいつの時代も、体制の支持者であり、けっして決して未来地図を描く予言者ではなかったのである。けれどもいつの時代にも必ず次の時代を背負う成長産業が出てくる。これらの成長産業は食い盛りであったから、何としてもお金を借りる必要があった。そういうニュー・ビジ不スの経営者は銀行に日参をし、お金を貸してもらえるものなら銀行が要求するどんな条件でも充たそうと努力した。
銀行がお金を貸す第一の条件は、その企業が好業績をあげていることであった。食い盛りの企業ならそのくらいの業績は充たすことができた。第二は、担保に提供できる不動産や株があるかということであった。この条件は大抵の新興勢力にとって無理難題に近い。充分な資産をもっていないからこそお金を借りにくるのであって、資産も資金も充分にあれば、そもそも銀行に駆け込むわけがないのである。しかし、銀行は充分すぎる担保を確保しなければ、お金を貸そうとしなかったので、やむを得ず中小企業の経営者は、会社の不動産をそっくり担保として提供しただけでなく、個人の家屋敷や定期預金まで提供した。会社の借金に対して社長の個人保証までさせられたので、万が一、会社が倒産すれば、社長は裸にされて文宇どおり無一文になってしまう。中小企業の社長は、会社は自分の物と考えていたから、こらいう苛酷な要求をされても、それを当然のこととして受け入れてきた。面白いことに、まだ中小企業だった時代に社長の個人保証を入れていた会社が一部上場の大企業になっても、充たそうと努力した。
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