中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第21回
日本人の胃袋は偉大だが、取捨選択の原則がある その2

日本人はその国の人が偉いと思ったら、
その国の人の屁でもいい匂いがすると思い込んでしまう。
終戦後、アメリカがいいと思ったら、
アメリカ人のやることはチューインガムをかむことから、
道を歩きながらコカコーラを飲むことまでそっくり真似をした。

コカコーラなど飲み物としてもすぐれたものではないし、
ハンバーガーに至っては調理の過程で脂肪分が散ってしまうので、
どう考えたって美味のうちには入らない。

ウサギに食べさせるほど山盛りにしたアメリカ風のサラダは、
ドレッシングも大味の一語に尽きて、
とても最後までつきあってはおられない。

それでも惚れたとなったら、
「あばたもえくぼ」だから、
アメリカン・フーズはあっという間に日本全国を席捲した。
ただ日本の経済力がアメリカのそれに追いつき、
アメリカ人の舞台裏が見えてくるにつれて、
百年の恋も醒めかかってくると、
アメリカの食べ物の欠点も目につくようになった。

日本人は中国大陸から輸入した文物でも、
自分らで工夫して改良してきたが、
アメリカから輸入したものも、
自分らの流儀でドンドン変えていく。
自動車やコンピュータもそうだが、
コーヒーの淹れ方から、ハンバーガーのつくり方まで、
小さな改良をくりかえしていくから、しばらくすると、
それが外国から輸入されたものと
似ても似つかぬものに変わっていく。

料理についていえば、アメリカのアラが見え出すと、
素早くフランス料理に鞍替えした。
フランス料理は日本料理よりずっと中華料理に近いから、
中華料理で使う材料はたいてい使われる。
パセリもセロリも使う。
中国人が敬遠するチーズの本家本元である。

もし日本人が白人をバカにしていたら、
日本人も中国人と同じようにチーズのことを、
くさーいといって顔をしかめたに違いない。
しかし日本人は欧米人を尊敬していたから、
はじめはまずいと思っても、我慢してチーズを口の中に入れる。
食べているうちにチーズのうまさがわかれば、
日本人の食わず嫌いは矯正される。
そのうちに日本人のかなりの人々がチーズもナマ野菜も
受け入れるようになったので、
フランス料理が日本人の食生活の中に
幅広く取り入れられるようになった。
おそらくあまり遠くない将来に、
フランス料理が日本料理になってしまうだろう。
もっともその頃になったら、
サシミがフランス料理のメニューにのるようになっているか、
日本料理のメニューの中にフォアグラや
キャビアが出てくるようになっているだろうが…。





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2012年8月26日(日)

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