中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第25回
日本文化の本流はフリガナ文化

日本の企業が世界を相手に商売をやるようになるにつれて、
社名をカタカナに変更することがハヤるようになった。
ちゃんとした立派な社名を持っていながら、
次々とカタカナ社名に社名変更していくのをみて、
何たることかと慨嘆する人が少なくない。
ソニーやファナックに対しては抵抗を感じない人でも、
NTTとか、JRとは何たることだと怒りを新たにする。

しかし、よくよく考えてみると、
日本電信電話というのも、日本国有鉄道というのも、
もとをいえば、大陸から輸入した外来語だから、
使い古した外来語ならよくて
新しい外来語はけしからんというのもおかしい。

言葉にも流行があって、今の日本人は
カタカナのほうがすすんでいると思っている。
私たちが子供の頃は、漢字の読めない人のために
漢字の脇にカナのルビをつけた。
それをフリガナといった。

外来語が漢字から口ーマ字に変わったのだから、
本来なら口ーマ字にフリガナをすればいいのだが、
ローマ字くらい誰でも読めるし、
音が同じであればいいのだから、
フリガナをそのままカタカナに変えただけのことである。

同じことを言い表すのでも、
カタカナの外来語で喋ったほうが
新鮮で先端を行っているような気分になる。
おかげで飯がライスになり、匙がスプーンになり、
茶がティーに、砂糖がシュガーになった。

喫茶店やレストランの名前もほとんどが横文字になってしまい、
ついに、皿を運んだり洗ったりする人まで外国人になりつつある。
生憎なことに、漢字ではそれができない。

中国人が外来文化を取り入れようとすると、
口ーマ字やカナのように外来語を音声で中国語にできないから、
どうしても漢字で表現するか、
オリジンを明示した表現になる。
中華思想が名実共に強大だった頃は、
胡瓜とか、蕃薯とかで片がついた。

上海に租界ができて黄埔公園に「犬と中国人入るべからず」
と看板を立てられるようになってからは、
さすがの中国人も弱気になって、
クラブは倶楽部、ビールは啤酒と発音と内容が
マッチする漢字をあてるようになった。

コカコーラは可口可楽とうまい当て字が使われているが、
外来文化が怒溝のごとく押し寄せてくるようになると、
漢字の融通性だけでは間に合わなくなり、
マクドナルド(このフリガナもおかしい)が
麦当労、ゴルフが高爾夫と、
口ーマ字にフリ漢字をした表現がふえてきた。





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2012年8月30日(木)

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