中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第43回
教育熱心でも学歴は重視しない

中国人の教育熱心は決して日本人に劣らない。
このことは台湾や香港に
字の読めない人がいないのを見てもわかる。
昔から越境入学はやっているし、
台北市では補習班と呼ばれる学習塾が
日本と同じように一つの町を形成している。

またアメリカの大学で、
学業優秀によりスカラーシップをもらっているのは、
ほとんどがオリエン夕ル系の学生である。
「オリエンタルは一人一人がよく勉強するだけでなく、
父母をはじめ家族の教育熱心に支えられているのだから
アメリカ人がかなうわけがない」
とアメリカ人がぼやいている。

大陸は香港や台湾に比べて、
経済的に後れをとっているのと、
文化大革命で一時期、
教育をおろそかにしたため空白が生じているが、
親が子供の教育に熱心なことについては
決して人後におちない。

学問のある人を尊敬すること、
学問のある人の社会的地位が高いことについては、
隋唐以来の長い伝統があるから、
目に一丁字ない人間でも
自分の子供には教育をうけさせようとする。
貧しかったために
子供に充分な教育の機会があたえられなかっただけのことで、
最近はこうした面は大幅に改善されている。

難を言えば、共産党政権になってから階級のランクが逆転し、
農民や軍人の子弟は「生まれがよく」て、
地主や資本家の子弟は「卑しい生まれ」として退けられたので、
本人に何の罪もない子供たちが高等教育を受ける
チャンスに恵まれないという一時期もあった。

四人組が排除され、文化大革命が否定され、
ついで開放政策に変わってから以後、
こういう差別待遇はあまり見られなくなった。

ただし、中華人民共和国と中華民国が
台湾海峡をはさんで睨み合いを続け、
双方とも自分らの正当性を強調するあまり、
教育の場がきわめて政治性の高いものになって今日に及んでいる。

決して自慢できることではないのだが、
そうした教育を頭の中に、
さんざ詰め込まれたはずの子供たちでも、
学校を出て社会人になると、
自分らの政府を信用しない国民になるのだから、
思想教育にどれほどの威力があるのか疑わしい。

教育熱心なことにおいては、
日本人は中国人よりもっと上かもしれない。
こちらはほぼ完壁な学歴社会だから、
良い学校を出たかどうかが立身出世に大きく影響する。
国全体が会社という組織によって
ガッチリかためられた社会だから、
会社に入って仕事をしようと思えば、
学校を選ぶところからはじめなければならない。

中国でも官界で出世しようと思えば、
学歴は無視できないが、日本ほどではない。
中国における立身出世は学歴よりも人間関係、
すなわちひきによってきまる。





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2012年9月19日(水)

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