中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第48回
会社は利益を追求するゲマインシャフト その2

世間の人は名詞をもらってもまず会社名を見る。
昔からの友人や親兄弟なら別だろうが、
世間はその人間を三井物産ならまず三井物産の社員として認識し、
ついでどこでそこのポジションを担当する誰さんとして記憶する。

だから三井物産の石川さんが三井物産を辞めて
ただの石川さんになると、
どこの石川さんかわからなくなってしまう。

仕方がないから電話口でとりついでもらう際には、
「もと三井物産にいた石川ですが…」と昔、
勤めていた会社を引き合いに出さなければ、
電話もつないでもらえない。

いまや日本人にとって「一生懸命の地」は会社である。
こうなった以上、社長も社員も会社のために
命を懸けて働くよりほかない。

日本の会社はさきに述べたように、
利益団体であるよりは精神的結社に近いから、
個人の収入にしても会社が決めた金額を
有難くちょうだいするだけで、
どんなに働きがあっても自分のほうからいくらくれとは言えない。

人件費として会社が支給する金額には全体としての大枠があり、
それを何百人、何千人で分配するとなれば、
ルールをつくってそのルールに従って
分配するよりほかないからである。

その代わり社員は家族のように扱われ、
少なくとも定年になるまでは、
大過なき限りクビになる心配はない。

病気をしても、大きな会社なら社内に病院の設備もあるし、
山の家も海の家もあり至れり尽くせりの福利施設が整っている。
中国人にとって家といえば、自分の家族が住んでいるだけだが、
日本では日立一家とか、東芝一家とかいうように、
会社という家が自分の家の上にもう一つある。

そういう仕組みの中から、
海外に支店や工場ができて本社から海外駐在員が派遣される。
東南アジアでこういう人たちが華僑と呼ばれる
現地の実力者たちと取引をするようになる。

中国人は商売になると思えば人をそらさないところがあるから
たちまち仲良くなり、
家族ぐるみのつきあいをするようになる。
家にも招んだり、
料理屋にも招待して盛大にもてなしてくれる。

しかし、それはまだ契約を交わす段階のことで、
取引がはじまるとたちまちもめごとがはじまる。
数とか目方についてははっきりとした基準があるから、
約束を破ればどちらに非があるか、はっきりしているが、
品質と納期については争う余地がいくらでもある。
たとえば、鰻の買い付けをする。

日本では六匹で一キロぐらいの鰻がもっとも食べごろだから、
「キロ六匹ものでいくら」という契約をしたとする。
ところが、実際に運び込んだものを見ると、
大きいのもあれば、小さいのもある。
「これじゃ約束が違う。
一キロ六匹の大きさと一言ったじゃないか」
と言ってクレームをつけると、
「秤にかけてみなさい。六匹で一キロ、十二匹で二キロになるよ」
と平気な顔をして反論する。

なるほど契約書を見ると、「一キロで六匹」と書いてあるが、
「一匹百六十グラム」とは書いていない。
なかでも一番争いのもとになるのは納期である。
たいていの契約には納期に遅れたら罰金を払う規定があるが、
天災、地変、悪天候など人力をもってはいかんともしがたい時は、
その限りにあらずと例外規定を設けてある。
納期に間に合わなければ船積みができなくなるし、
約束の日時に届かなければ、
お客からキャンセルをくらうおそれがある。

しかし、日本側にとっては気が気でならないことでも、
中国や東南アジアでは全く取り合ってくれない。
できないことは仕方がないと肩をすぼめるだけおしまいである。
反対に、日本人は嘘つきで約東を守らないと
非難されることも再三ならずある。





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2012年9月24日(月)

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