中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第75回
ふだんの日はショー・ルーム、バーゲン・セールが本番 その2

中国大陸に行っても大勢に変わりはない。
一人当たりの収入はおそらく台湾の十分の一にも充たないが、
貯蓄に熱心なことにおいては決して台湾に劣らない。

いま私の手元に正確な数字がないが、
中国大陸ではお金を持っていることを人に知られたくない
という事情があるので、
タンス預金になっているものも少なくない。
あとはすべて銀行に持って行って預金をするよりほかない。

家を買って人に貸すこともできないし、
お金を出しあって商売をやるチャンスもなかった。
だから上海と深センに株式取引所ができた時、
どっと投資家が押し寄せ、
株価がレシオ100まで押し上げられたのはご存じのとおりである。

株価が高くなると、新規上場株の割り当てをもらっただけで、
かなりのプレミアムを稼ぐことができる。
そのために、どの証券会社にも
前夜から行列ができるようになった。

十人に一人当たる認購申請書が売り出されると、
一枚百元の整理券を十枚買って
一枚当たっても何千元かの利鞘を稼げる。

中国人は利にさといから
ついに一枚百元の申請書がヤミ値で千元にも買い上げられた。
利にさといのはお役人も同じだから、
欲深い役人たちが枠外の申請書を三百万枚も横流ししたから、
徹夜をして並んでいた連中が怒り狂って暴徒と化した。

この椿事はニュースとして世界中に報道されたから
ご承知の方も多いと思うが、
たかが新規上場株の割り当てをめぐって
これだけの大混乱が起こるのだから、
中国人のお金に対するこだわりが
いかに大きなものであるかおわかりいただけるであろう。

株の割り当てについて少しでも不公平なことがあると
おさまりがつかないから
充分気をつけるようにと香港証券取引所の人たちが
予めアドバイスしていたにもかかわらず、
深セン取引所を取りしきる中国側の役員たちは
耳を傾けようとしなかった。
何しろ行列をしただけでお金が儲かるときかされた人々が、
身内や友人からお金と身分証まで預かって
全国から四十万人も押しかけていたから、
役人たちが不正を働いたことがわかると、建物を壊したり、
自動車を焼いたり、行列している者が
お互いに殴る蹴るの大喧嘩になった。
ついには失政の責任を取って
深セン市長が入れかわることになってしまった。

この一事をもってしても、
四十数年共産党の統治下におかれながらも、
中国人の経済観念が依然として健在であったことがわかる。





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2012年10月22日(月)

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中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」

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