中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第77回
ふだんの日はショー・ルーム、バーゲン・セールが本番 その4

個人商店や専門店に比べると、
デパートは建前上、あまり値切らせてくれない。
そのためふだんは、デパートに買物に行くお客は少ない。

ところが、バーゲン・セールがはじまると、
天から降って来たのか、
地から湧いて来たのかと思うほどどっとお客が押し寄せる。

デパートは隣り同士とか、
お向かいにあったりするから、
一軒がバーゲンをはじめると、競争相手も必ず後を追う。
こちらが二割引きをやると、
向こうは二割五分引きをやる。

すると、こちらも負けじと、
三割引き出血大作戦に踏み切る。
デパートの周辺は交通整理が出るくらいの大混雑になり、
一週間で二、三ヵ月分に匹敵する売り上げがあがる。
ついにはバーゲン・セールがデパートの年中行事と化し、
バーゲンでかろうじて商売が成り立つ
といった様相を呈するようになる。

最近、日本の百貨店やスーパーの東南アジア進出が盛んだが、
たいていの日本人は
中国人のこうした消費者心理がよくわかっていないから、
日本の商習慣をそのまま持ち込み、
定休日は週一回、バーゲンはお中元・お歳暮の年二回、と
杓子定規のやり方をしたりする。
すると開店記念セールには
あれほどの人が集まったにもかかわらず
お客が全く寄りつかなくなり、
経営方針について現地の共同出資者ともめるようになる。

つい最近、台湾に進出した日本の一流デパートは、
ガンとして自分の主張を変えなかった
日本人総経理のクビをすげかえ、
現地と妥協して、やっと年中無休、夜も十時まで、
バーゲンは何かと理由をつけては
くりかえすことでお客を呼び戻すことに成功した。

ふだんの日のデパートは
下見のためのショー・ルームで
バーゲンの時が本番だと思って採算をとればよいのである。

そのへんのところは百貨店側も心得たもので、
割り引きをすると損をする輸入の粉ミルクとか、ブランド商品は、
バーゲンのはじまる前に倉庫の中にしまい込んでしまう。

また五割引きにしたりすると、
足の出る商品は、前の晩に徹夜で正札をつけかえてから
半額で売るチャッカリとしたデパートもあるそうである。

しばらくは不慣れなために高い授業料を払った進出企業も、
現地の商習慣がわかってくると、
日本的商法にばかり
こだわってもおられないことがわかるようになる。

香港に行けば、シーズンでなくても、
どこかの日本人経営のデパートで
必ずバーゲン・セールをやっている。
でなければ、特売場があちこちにあって、
値引き商品のあいだに
値引きをしない商品が並んでいるようなレイアウトになっている。

「その土地のことを知りたかったら、
市場とデパートに行きなさい」と、
かねがね私は主張しているが、
中国人の消費動向を知りたかったら、
中国人が毎日の買物に行く市場と、
日常品、賛沢品を買いに行くデパートの両方を覗いて見ることである。





←前回記事へ

2012年10月24日(水)

次回記事へ→
中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」

ホーム
最新記事へ