中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第98回
中国人と韓国人の区別もつかない日本人 その2

「これだけ自主的な運動を展開している国で、
はたしてまた揺り戻しがあるだろうか」と、
私はセレモニーの一員をつとめながら、
十年先、二十年先のことを想像してみた。

私と合弁契約をした相手の機構だけでも十八件もの契約があり、
その分の投資金額だけで優に十億ドルを超える。
パートナーの中には私のほかに、
香港上場企業のオーナーが何人か加わっており、
このセレモニーより一足先に契約をした香港財閥の中には、
長江実業の李嘉誠、シャングリラ・ホテルの郭鶴年、
新世界の鄭裕トウ、襖門カジノの霍英東の名も見えている。

一ロで言えば、香港、タイの華僑を総動員した
投資誘致運動であり、
台湾の企業家たちはここでは表面に出て来ていないが、
これに負けないくらいの最大級の企業進出がはじまっている。

要するに、東南アジア(香港・台湾を含んだ)
五千二百万人の華僑をまき込んだ
一大経済プ口ジェクトが展開中なのである。

この成果が目に見える形で出てくるのには、
あと三年から五年かかるだろう。
私自身を例にとれば、
現在、北京と上海と天津と成都で、
マンション、事務所ビル、保税区内の小型団地、
大型ショッピング・モールの建設にかかっているが、
三千万ドルから五千万ドルのプロジェクトは
完成するまでに早くて二年、
一億ドルのプ口ジェクトはその倍くらいの歳月を要する。

私が九二年三月に上海で高層ビルを建てる契約をした時は、
下交渉を進めながら様子を見ていた人が多かったが、
私がサインをしたのをきっかけに、
たちどころに八十件も契約が成立した。

つまり、これから三年以内に上海市の浦東だけで
少なくとも八十棟以上の高層ビルが出現することになる。
他の大都市でも負けじと
海外華僑への働きかけが行なわれているから、
この動きは沿海地域から
揚子江沿岸地域にかけていっせいに開花する。

中国の経済成長率は政府の発表では七%ということであった。
それが7%では遅すぎるとケ小平にたしなめられて、
いきなり10%に訂正したと新聞は報じている。

一人の実力者の発言によって、
経済成長率がすぐにも変えられるほど
経済社会は単純にはできていない。

すでに成長に向かってテイク・オフしているところへ
さらにアクセルを踏むようなものである。
エンジンが過熱するだろうことは目に見える。

日本や台湾の過去をふりかえると、
成長率10%をこえる時期がなかったわけではないが、
そういうスピードは二年か、長くて三年しか続かない。
速すぎるスピードは必ず無理を生じて息切れをする。

中国の場合、沿海地域で10%成長を実現するのにも
かなりの努力が必要なのに、
全国で10%平均の成長率を確保しようと思えば、
沿海地域だけで20%くらいのスピードを
かけなければならないだろう。

そんなことをやれば、二年もたたないうちに、
インフレと外貨の不足に見舞われて
金融引き締めをしなければならなくなる。





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2012年11月14日(水)

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